発達心理学研究第33巻(2022年)


33巻1号


◆高堰 仁美:発達障害児を持つ親の認知的怒り制御プロセスに関する研究

 本研究では,発達障害児の親の,認知的怒り制御方略及びその使用過程を検討することを目的とした。療育機関に所属する4歳〜10歳の発達障害児の母親23名に対する半構造化面接を実施し,うち16名の語りをGTAにより分析した。結果として,親の心身の安定と怒りのセルフモニタリングが認知的怒り制御の背景として存在することが示された。また,2つの認知的怒り制御過程が見出された。第一に行動生起の背景を分析的に見ようとする【子の行動の背景への注目】後,《子への共感的視点》《効果的な対処の思案》《褒める点の思案》がなされ,ポジティブ感情の生起や怒り低減をもたらすパターンであった。第二に,日頃の子どもとの交流を見つめなおす【現在の見つめなおし】後,《現在の肯定的交流への焦点化》がなされ,ポジティブ感情の生起や怒り低減をもたらすパターンであった。本研究で示された方略は,先行研究で示されてきた子育てにおける怒り低減の方略と比較し,より分析的・問題解決的である点で,発達障害児の親に顕著な「対処可能性の低さ」(中谷,2016)に起因する怒りの低減に有効と考えられる。また,怒り低減のみに留まらずポジティブ感情生起を伴う点で,親子の関係性の安定や,親自身の精神的健康にも良い影響を与えうる方略であったと考えられる。

【キーワード】認知的感情制御,怒り,発達障害児の親支援,GTA

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◆藤  翔平・杉村伸一郎:幼児の役割遊びにおける自己調整機能の特徴:他の遊びとの比較による予備的検証

 幼児が行うふり遊びは子どもの発達に様々な恩恵をもたらすとされているが,その一つに自己調整機能がある。先行研究ではふり遊び,なかでも役割遊びの質や頻度が,役割遊びの内外での自己調整機能と関連するかについて検討がされてきた。しかし,役割遊びの中で見られる自己調整機能には,他の遊びと比較して,どのような特徴があるかについてはほとんど研究されてこなかった。そこで,本研究では,幼稚園に通う年中児と年長児計32名を対象に,役割遊びとそれ以外の遊びを観察し,その中で見られる自己調整的言動の頻度の比較を行った。比較の観点は,(a)認知的・情動的,(b)調整の段階(プランニング,モニタリング,コントロール,評価),(c)調整の対象(自己,他者,自他)の3つであった。その結果,役割遊びでは構成遊び(物を作る遊び)と機能遊び(身体を動かす遊び)に比べて,認知的なプランニングが多く見られることが明らかになった。一方,その他のカテゴリーについては,役割遊びと他の2つの遊びとの間に有意な差が見られなかった。以上の結果から,自己調整機能の観点から見た役割遊びの特徴はプランニングの豊かさにあること,また,それ以外の自己調整機能に関しては構成遊びと機能遊びでも役割遊びと同程度に働いていることが示唆された。

【キーワード】ふり遊び,自己調整機能,メタ認知,観察,幼児教育

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◆大島 聖美・鈴木 佳奈・西村 太志:夫婦が親チームとなっていくプロセス:幼児期の子どもを持つ夫婦を対象とした質的研究

 本研究では夫婦がチームとして育児家事を分担していく相互影響過程を明らかにすることを目的に,幼児期の子どもを持つ夫婦21組を対象に半構造化面接を行った。修正版グラウンデッドセオリー法を用いて検討した結果,夫婦が【子の誕生前後の家庭観】を持ちつつ【夫婦間ホメオスタシスを保つ努力】を行う中で,【思い通りにいかないことが出て】きたり,そのことによって【お互いに察してほしいの悪循環】になったりしつつも,【葛藤に対処し】,徐々に【親チームになっていく】過程が明らかとなった。この結果から夫婦間の相互作用において,夫婦は【夫婦間ホメオスタシスを保つ努力】や【葛藤に対処する】という関係内の肯定的側面と【思い通りにいかないことが出てくる】や【お互いに察してほしいの悪循環】といった否定的側面を行き来しつつ,肯定的側面が否定的側面を上回る時,【親チームとなっていく】ことが示唆された。最後に先行研究と本研究の共通点や相違点について議論した。

【キーワード】親チーム,夫婦,幼児期の子ども,半構造化面接,M-GTA

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◆中島 卓裕・伊藤 大幸・村山 恭朗・明翫 光宜・柳 伸哉・浜田  恵・辻井 正次:一般小中学生におけるASD特性と運動能力及び心理社会的適応との関連

 本研究の目的は,一般小中学生における運動能力を媒介とした自閉スペクトラム特性と心理社会的不適応(友人関係問題,抑うつ)の関連プロセスを検証することであった。小学4年生から中学3年生の5,084組の一般小中学生及び保護者から得られた大規模データを用いて検討を行った。パス解析の結果,ASD特性が高いほど運動能力の苦手さがみられることが明らかとなった。また,ASD特性と抑うつとの関連においては26%が,ASD特性と友人関係問題の関連については小学生で25%,中学生で16%が運動能力を媒介した間接効果であったことが示された。これらの関連においていずれの性別及び学校段階においても有意な効果の差は見られなかったことから,性別及び学校段階によらず心理社会的不適応に対して運動能力が一定の寄与を果たしていることが示唆された。本研究は代表性の高い一般小中学生のサンプルでASD特性と運動能力,心理社会的不適応の連続的な関連を定量化した本邦初の研究であり,今後のインクルーシブ教育推進のための政策・実践の基礎となる重要なデータを提供するものである。

【キーワード】自閉スペクトラム症特性,運動能力,心理社会的不適応,小中学生

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33巻2号


◆大久保圭介・唐  音啓・遠藤 利彦・野澤 祥子:妊娠期の夫婦間の話し合い度と育児期のゲートキーピングの関連:就業形態の組み合わせごとの検討

 本研究の目的は,妊娠期における夫婦間の話し合いが,育児期において父親が知覚する母親からのゲートキーピング・ゲートオープニング行動に及ぼす縦断的な関連を明らかにすることであった。分析対象者は,合計1357組の夫婦ペアであり,子どもが0歳と3歳の2時点で得られたデータの分析を行った。妊娠中の話し合い度は,母親が,子どもが0歳時点で妊娠期のことを回顧的に評定したものを,ゲートキーピング・ゲートオープニングは,父親が,子どもが3歳時点で評定したものを分析に使用した。結果として,妊娠期の話し合い度とゲートオープニングの関連はいずれの就業形態の組み合わせの夫婦でも有意であったのに対して,ゲートキーピングとの関連は夫婦ともに正社員の組み合わせにおいてのみ有意であった。妊娠期の話し合い度合いによるゲートキーピング・ゲートオープニングの分散説明率は最大で10%ほどであった。本研究の結果からは,特に出産後にフルタイムで働くことを予定している夫婦にとっては,出産前に夫婦で話し合っておくことが重要であることが示唆された。

【キーワード】ゲートキーピング,ゲートオープニング,妊娠期の夫婦関係,ダイアドデータ

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◆溝江  唯・大伴  潔:自閉スペクトラム症幼児と定型発達幼児の象徴遊びの発達について:象徴遊びのレパートリーと連鎖に着目した縦断的検討

 本研究は,知的発達および言語発達に遅れのない自閉スペクトラム症(ASD)幼児10名と定型発達(TD)幼児10名を対象とし,象徴遊び行動の生起頻度とレパートリー数,「食事」,「移動」といった遊びのテーマの生起頻度とレパートリー数,象徴遊び行動の連鎖数に焦点を当て両群の発達過程の違いを明らかにするために縦断的に比較を行った。生活月齢30か月〜42か月の時点より約1年間に渡り6か月程度の間隔で3回データ収集を行った。月齢を共変量とした一般線形混合モデルにより群間の比較を行ったところ,象徴遊び行動のレパートリー数,象徴遊び行動の連鎖数において,群と月齢の交互作用が認められた。下位検定の結果,ASD群は月齢が上昇しても象徴遊び行動のレパートリー数と連鎖数に変化が認められなかった一方で,TD群においては,これらの指標値に増加が認められた。知的発達・言語発達ともに遅れのないASD幼児であっても象徴遊びのレパートリー数や連鎖においてTD幼児と発達過程が異なることが示された。

【キーワード】象徴遊び,遊びの連鎖,遊びのレパートリー,自閉スペクトラム症,縦断研究

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◆佐々木美恵・小林 紀代・市川 陽子・安藤 智子・香山 雪彦:地震・放射線災害下において幼児を育てる母親の精神的健康:福島第一原子力発電所事故後3年時点の調査に基づく検討

 本研究は,福島第一原子力発電所事故後の子どもの健康不安と母親の精神的健康に着目したものである。発災後約3年時点において,福島県内で比較的高い放射線量が測定された内陸地域で乳幼児を育てる母親の精神的健康について,子どもの健康不安,放射線問題をめぐる認識や対応の周囲との相違,および放射線問題についての自律的判断を主要な関連要因として,実証的検討を行うことを目的とした。調査時期は2013年12月から2014年1月であり,福島県中通り地方A市内の3–6歳児をもつ母親を対象として自記式質問紙調査を実施した。有効回答者は346名であった。交互作用項を投入した階層的重回帰分析の結果,母親の抑うつに対して,周囲との相違と自律的判断の交互作用項が有意であった。単純傾斜分析から,自律的判断高低のいずれの場合においても,周囲との相違は抑うつへの有意な正の影響を示した。ただし,自律的判断が高い場合の傾きはより小さかった。さらに,発災時家屋被害が抑うつに有意な正の影響を示し,家族や親族によるサポートが有意な負の影響を示した。子どもの健康不安は抑うつに対する正の影響を示したが,有意傾向であった。本研究の結果から,事故後3年段階において子どもの健康不安は母親の精神的健康のリスク要因として留意する必要があること,および自律的判断は周囲との相違と抑うつの関連に対する緩衝的な調整効果をもつことが明らかとなった。

【キーワード】東日本大震災,家屋被害,健康不安,周囲との相違,自律的判断

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◆石川 惠太・東 菜摘子・大賀 真伊・滝沢  龍:親の小児期逆境体験が次世代の精神病理に与える影響に関する研究の現状と課題

 本研究は,福島第一原子力発電所事故後の子どもの健康不安と母親の精神的健康に着目したものである。発災後約3年時点において,福島県内で比較的高い放射線量が測定された内陸地域で乳幼児を育てる母親の精神的健康について,子どもの健康不安,放射線問題をめぐる認識や対応の周囲との相違,および放射線問題についての自律的判断を主要な関連要因として,実証的検討を行うことを目的とした。調査時期は2013年12月から2014年1月であり,福島県中通り地方A市内の3–6歳児をもつ母親を対象として自記式質問紙調査を実施した。有効回答者は346名であった。交互作用項を投入した階層的重回帰分析の結果,母親の抑うつに対して,周囲との相違と自律的判断の交互作用項が有意であった。単純傾斜分析から,自律的判断高低のいずれの場合においても,周囲との相違は抑うつへの有意な正の影響を示した。ただし,自律的判断が高い場合の傾きはより小さかった。さらに,発災時家屋被害が抑うつに有意な正の影響を示し,家族や親族によるサポートが有意な負の影響を示した。子どもの健康不安は抑うつに対する正の影響を示したが,有意傾向であった。本研究の結果から,事故後3年段階において子どもの健康不安は母親の精神的健康のリスク要因として留意する必要があること,および自律的判断は周囲との相違と抑うつの関連に対する緩衝的な調整効果をもつことが明らかとなった。

【キーワード】東日本大震災,家屋被害,健康不安,周囲との相違,自律的判断

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33巻3号


◆廣戸 健悟:調整プロセスとしてみる向社会的行動の発達:幼児期を対象とした自然観察研究

 幼児期の向社会的行動の発達的変化を明らかにすることを目的とし,向社会的行動が発生してから事態が収束するまでの行為者と受け手の一連の相互作用を記録した。従来の発達研究では,他者の窮状に接した直後の子どもの一回性の反応のみが着目され,そこで向社会的行動が行われたか否かという点にもっぱら関心が向けられてきた。しかし,行為が受け手に伝わらない,あるいはネガティブな反応を引き起こした場合,行為者は向社会的行動を柔軟に「調整」することが求められる。そこで本研究では,幼児が受け手の反応に応じていかに向社会的行動を調整するかに着目し,3歳児と5歳児を対象に自然観察を行った。観察された受け手の反応を分類した結果,3歳児は5歳児に比べてネガティブ反応が多く,5歳児は3歳児に比べて受容反応が多くみられた。また,向社会的行動の適切性を検討するため,ニーズ,動機,方略の妥当性,利益の4つの基準を設けて分析した結果,5歳児は3歳児に比べて適切な向社会的行動を多く示した。また,向社会的行動の調整についての年齢差を検討したところ,受け手が受容反応とネガティブ反応を示した場面で,5歳児は3歳児に比べて受け手の反応に応じてより適切な向社会的行動に調整していることが示された。本研究より,幼児期において,調整プロセスという観点から向社会的行動を捉えることで,新たな発達的変化が存在する可能性が示唆された。

【キーワード】向社会的行動,調整プロセス,自然観察,幼児

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◆小川 翔大:障害者に対する顕在的・潜在的態度が身体障害学生との友人関係に及ぼす影響:混合研究法を用いた交流過程の分析

 本研究では,障害者に対する健常学生の態度が身体障害学生(車椅子利用者)との友人関係に与える影響を,混合研究法により検討した。フェーズ1(量的研究)では,大学に通う健常学生を対象に,障害者観(顕在的態度)と「障害者は能力が低い」というスレテオタイプ(潜在的態度)を指標にして接触仮説を検証した。その結果,身体障害学生の友人あり群(18名)は友人なし群(63名)より全指標で偏見が弱く,仮説は支持された。フェーズ2(質的研究)では,友人あり群の健常学生(15名)とその友人の身体障害学生(3名)にグループインタビューを行い,交流内容を検討した。その結果,身体障害学生と健常学生は障害特性の情報を共有し,相互にサポート提供する中で,不安や葛藤を感じていた。フェーズ3(データの統合)では,「障害者は能力が低い」という潜在的態度が強い健常学生は身体障害学生に過度なサポートを提供して,どちらの学生も不満や葛藤を抱くことが示された。最後に,インクルーシブ教育で友人関係を維持するサポートの互恵性について考察した。

【キーワード】インクルーシブ教育,潜在連合テスト,接触仮説,集団間友情

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◆松葉百合香・リースティーブケイ・原口  幸・岩崎美奈子・大月  友・桂川 泰典:日本語版メンタライゼーション尺度(The Japanese version of Mentalization Scale:MentS-J)の開発と信頼性,妥当性の検討

 本研究の目的はThe Mentalization Scale(以下,MentS)の日本語版を作成し,尺度の信頼性,妥当性の検討をすることである。尺度の翻訳使用に関する原著者の承諾のもとMentSを日本語訳し,大学生352名を対象に調査を行った。原版の因子構造に基づく確証的因子分析の結果,一部に項目の減少はあったものの,原版と同様の3因子構造(自己に対するメンタライジング,他者に対するメンタライジング,メンタライゼーションへの関心)が明らかとなった。内的整合性および再検査信頼性においては,十分ではないものの一定の値が確認された。基準関連妥当性のための相関分析の結果,一定の妥当性が示された。また構成概念妥当性の検討のために行った偏相関分析の結果,MentS-Jは境界例心性尺度,自閉症スペクトル指数と負の相関がみられた。これらの結果からMentS-Jにおける一定の信頼性および妥当性が示され,自記式質問紙によるメンタライゼーションのアセスメントへの活用可能性が示された。

【キーワード】メンタライゼーション,境界性パーソナリティ障害,自閉スペクトラム症

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◆久原恵理子・宮寺 貴之・藤原 佑貴:幼児の被誘導性及び記憶における作話と認知機能の関連

 本研究では幼児を対象として,被誘導性及び記憶における作話(歪曲と捏造)と認知機能との関連を検討した。女児(5–6歳)に対して,被誘導性を測定するテスト(The Bonn Test of Statement Suggestibility)とWISC-IVを実施し,65名を分析対象とした。分析によって,以下の結果が明らかになった。選択式質問による誘導と言語理解との間に負の関連が示された。一方で,はい・いいえ質問(YNQ)による誘導と質問の繰り返しによる誘導の両方ともWISC-IVのいずれの指標とも有意な関連はみられなかった。しかしながら,YNQ及び質問の繰り返しによる誘導は月齢と有意な関連がみられた。YNQによる誘導は月齢が上がるほど減少するが,質問の繰り返しによる誘導は月齢が上がるほど増加した。記憶における作話について,歪曲はWISC-IVのいずれの指標とも有意な関連がみられなかったが,捏造はワーキングメモリーと負の関連がみられた。本研究で得られた知見から,幼児に対する聴取への応用的示唆について議論した。

【キーワード】被誘導性,記憶における作話,知能,ワーキングメモリー,幼児

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