発達心理学研究第12巻(2001年)   


12巻1号

養育者との相互交渉にみられる乳児の応答性の発達的変化:二項から三項への移行プロセスに着目して(塚田みちる:東京都立大学)

二項的相互交渉に対象物が加わって,三項的相互交渉が成立していくプロセスを,月 齢9カ月頃の乳児の応答性の変化に着目して記述した。特に,母親が対象物を提示し たときの乳児の応答として,母親と対象物とに注視を切り替える交互作用と,情緒の 表出を検討した。7組の母子を対象に,7カ月から12カ月までを縦断的に観察した。 得られたデータを,二項的相互交渉,乳児が交互注視を行わない三項的相互交渉と, 交互注視を行う三項的相互交渉に分類し,その生起時間と,母子間の行動の連鎖とを 分析した。その結果,7,8カ月では,二項的相互交渉か,乳児の交互注視を伴わな い三項的相互交渉が見られた。9カ月頃より,乳児が交互注視をして応答する三項的 相互交渉が出現した。一方,9〜11カ月頃は,二項的相互交渉で母親が対象物を提 示すると,乳児が応答する傾向にあった。さらに,12カ月になると,乳児の交互注 視と,対象物の提示などの行為が関連し,このとき肯定的情緒や声を表出する傾向に あることが明らかとなった。これらより,二項的な相互交渉が主に展開する7,8カ 月から,9カ月頃の乳児の応答性の変化を軸に,三項的な相互交渉へと移行すること が推測された。さらに,二項から三項へと移行する際の二項的相互交渉,および,肯 定的情緒のもつ機能的意味や,乳児が母親の誘いにあえて応じないことの持つ意味に ついて指摘した。

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母親が子どもをイヤになること:育児における不快感情とそれに対する説明づけ(菅野幸恵:白百合女子大学)

母親が子どもに対してもつ否定的感情は,子どもの成長や母親としての適応に悪影響 を及ぼすだけなのだろうか。本研究では,母親が育児の中で当たり前に経験する感情 として子どもに対する不快感情を取り上げ,不快感情が母子関係の中でポジティヴな 役割を果たしている可能性について,不快感情の内容とそれに対する説明づけ (accounting)から記述的に検討した。まず,母親の不快感情は育児場面のどのよう な状況での,子どものどのような行動に対して生じているのかについて検討した。不 快感情は就寝時や食事中など日常的課題場面での子どもの不従順な行動や,課題がな い場面での以前と変化した行動に対して生じていた。次に受け止め方を不快感情と説 明づけとの関連から検討した。母親は不快感情を契機に子どもの育ちや自らの関わり 方を振り返っており,その振り返り方は課題の有無によって異なることが明らかとな った。日常的課題場面での行動に対して母親は自分のやり方を確認した上で,そのや り方を貫こうとしているが,課題なし場面での行動には譲歩的であることが明らかに なった。二つの振り返り方により子どもの見方や自分の関わり方の安定や修正が図ら れていることが考えられた。

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3,4歳男児の友だち集団の特徴:個人行動及び二者関係と優勢順位との関連(謝文慧:広島大学・山崎晃:広島大学)

本研究では,特定の3,4歳男児の友だち集団について,遊びの共有化過程に影響す るといわれている各成員個人の行動特徴と成員間の二者関係が集団内の優勢順位とど のような関連があるのかを明らかにすることを目的とする。3歳男児9名による1つ の友だち集団は2月から3月まで自由遊び場面を通して観察された。集団全体の構造 的特徴として優勢順位を用いて,それに基づき個人の行動特徴と集団成員間の関係に ついて検討を行った。結果として,集団全体の活動は優勢順位の上位者を中心に行わ れており,成員間の優勢順位の開きが大きいほど自己開示が生じにくく,優勢順位は 集団全体の活動とも集団成員間の行動とも関連していた。観察集団の中で,集団の中 心的存在を示す子がおり,彼が多くの成員と親密的,調和的な相互作用を行っていた。 それと同時に,彼が優勢順位の最上位でもあり,成員を統制する行動も多かったこと が示された。集団成員が優勢順位での自分の位置づけに基づいて,相手によって相互 作用を行った。優勢順位が集団内の社会的行動を制御する働きは3,4歳ごろにすで に現れていることが示された。成員個人の行動特徴や成員間の二者関係が集団全体の 優勢順位から影響を受けると同時に,親密度の高い二者関係が優勢順位の変遷を促す 可能性や,また,その二者関係が個人の行動特徴によって決められている可能性も示 された。

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2〜4歳児における情動語の理解力と表情認知能力の発達的比較(櫻庭京子:名古屋大学・今泉敏:東京大学)

本研究では2〜4歳の幼児(N=134)を対象に,「喜び」,「悲しみ」,「怒り」,「驚き」 の基本4情動について,情動語を呈示してそれにあう表情図を選択させる課題(言語 呈示課題)と,赤ちゃんの写真を提示して赤ちゃんが示す情動と共通の情動を示す表 情図を選択させる課題(表情呈示課題)を実施した。その結果,両課題とも正答率は 加齢とともに有意に上昇したものの,年齢によらず一貫して言語呈示課題の方が高か った。表情呈示課題では口など顔面構成要素の形状が共通である表情図を選択する傾 向があり,それが成績を下げる要因であった。これらの結果は,情動語とそれに対応 する表情の結びつきが2歳までには発達し始めていることを示唆する。

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成人の娘の心理的適応と母娘関係:娘の結婚・出産というライフイベントに着目して(北村琴美:お茶の水女子大学・無藤隆:お茶の水女子大学)

本研究では,母娘関係が成人の娘の適応状態を規定する度合いを検証するとともに, 娘の結婚や出産といったライフイベントによって母娘関係がどのような発達的移行を 経るのかを探索的に調べるために,成人女性415名を対象とした横断的データに基づ いて,独身女性,既婚で子どもがいない女性,既婚で子どもがいる女性間での比較検 討を行った。その結果,母親との親密性は独身の娘の心理的適応と関連していると同 時に,既婚で無職の娘の心理的適応に対してもある程度の効果を持つという結果が得 られた。一方,母親への過剰な依存・接触は,職業の有無に関わらず,既婚で子ども がいない女性の心理的適応と負の関連を示していた。また,ライフイベントによる成 人期の母娘関係の発達的移行に関しては,独身あるいは有職の娘と比較して,既婚で 無職の娘は,母親との親密性が高く,サポートを求める気持ちが強いことが見出され た。

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12巻2号

老年期における回想の質と適応との関連(野村信威:同志社大学・橋本宰:同志社大学)

本研究における目的は,老年期における回想という行為と適応との関連について検討することである。 また回想において適応と関連を示す要因は,回想行為そのものよりも回想の質であるという仮説のもとに, 「回想の情緒的性質」および「過去のネガティブな出来事を再評価する傾向」を測定する尺度を作成し, これらの要因と人生満足度や抑うつ度などとの関連について,老人大学受講者208名および大学生197名 を対象に質問紙調査による検証を試みた。その結果,世代や性別によりその関連の仕方は異なるものの, 回想の情緒的性質が適応度と関連することが認められ,ネガティブな出来事の再評価傾向は主に青年期で, 回想量は老年期の男性で特徴的に適応度を説明した。そのため老年期の男性で頻繁に過去を振り返ること は適応度の低さと関連すると考えられた。さらに老年期の男性のみに,ポジティブな回想の想起しやすさ と回想量との交互作用が認められ,ポジティブな回想と適応度の関連する程度は回想量によって異なると 考えられた。

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関係性の観点から見た女子青年のアイデンティティ探求:2年間の変化とその要因(杉村和美:追手門学院大学)

本研究の目的は,女子青年のアイデンティティ探求における関係性のレベルを縦断的に検討し,関係性の レベルの変化に関わる要因を明らかにすることであった。女子大学生31名に対して,Ego Identity Interviewを拡張した面接を,3つの時点(3年生前期・4年生前期・4年生後期)で実施した。領域は,職業, 友情,デート,性役割の4つであった。職業,友情,デートの3つの領域において高レベルの関係性への, 有意な移行が示されたが,性役割においては有意な変化は示されず,低レベルへ移行した者が高レベルへ 移行した者を上回った。変化の要因については,「就職活動・職業決定」が最も多く,高レベルへの移行 と低レベルへの移行に共通に報告された。また,「友人・恋人との関係の変化」が,高レベルへの移行に 顕著に見られた。本研究の結果は,アイデンティティにおける関係性の側面を重視する最近の動向を支持 するとともに,関係性の観点から見たアイデンティティ形成のプロセスについていくつかの実証的な証拠 を提出した。

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中学生の精神的健康とその父親の家庭関与との関連:父母評定の一致度からの検討(平山聡子:お茶の水女子大学)

本研究では中学生の精神的健康が,父親の家庭関与についての父母評定の一致度とどのように関連してい るかを検討した。中学1・2・3・年生の家族161組を対象とし,中学生の精神的健康(神経症傾向・怒り・ 非協調性)については中学生が,父親の家庭関与については父親と母親が評定した。中学生の精神的健康 と父親の家庭関与との相関を算出したところ,男子では神経症傾向・怒り・非協調性すべてが,母親の評定 した父親の家庭関与との相関を示した。一方女子では神経症傾向が父母評定ともに父親の家庭関与と相関 を示していた。次に父母評定の一致度により4群(父母ともに父親の家庭関与を高く評定した一致群,父 母ともに低く評定した一致群,父親は高く母親は低く評定した不一致群,父親は低く母親は高く評定した 不一致群)を設定し,一元配置の分散分析を行った。その結果,父母ともに一致して父親の家庭関与を高 く評価している時に中学生の神経症傾向が最も低かった。中学生の神経症傾向が最も高くなるのは,父親 が自分の家庭関与を高く自己評価している一方で母親は低く評価している不一致群であった。父親が自分 の関与の低さを自覚している時以上に母親のストレスが溜まり,それが中学生に伝わると推察される。また, 過去に父親の家庭関与が高くても,現在の関与は低いと母親が見なしている場合にはかえって中学生の神 経症傾向が高い結果が得られた。過去も現在も一貫して父親が過程に関与することが中学生の精神的健康 にとっては望ましいと考えられる。

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2〜3歳時の子どもの存在/自己のありようを記述する試み:主体間の両義的な力動的関係という観点から(石野秀明:京都大学)

保育の場に関与しつつ縦断的に観察を行っていると,子どもが2〜3歳ともなれば,それ以前とはまた異 なる独特の存在/自己のありようが浮き立ち,またそのようなものとして保育者と観察者の下に感じられ るようになってくる。本稿では,子どもと保育者双方の心の動きにまで踏み込んで事例記述を行い,この 時期の子どもの存在/自己のありようの内実を明らかにすることを目的とした。結果は以下の通りである。 @2〜3歳児は<自立−依存>という一件逆向きの態度を表裏一体に抱え込み,それは,保育者の<導く− 受け入れる>という両義的な対応に絡み合って表面化する。A保育者の対応も,子どもの「自己」の<押し 出す−萎縮する>という両義的な出方と絡み合うかたちで紡ぎ出される。B2〜3歳時の子どもに特有の 存在/自己のありようの内実とは,この「子ども−保育者」の絡み合った力動的関係の中で,子どもが 「一個の自己」として浮き立ち,保育者と観察者の下に感じられるその都度の具体的な様相に他なら ない。以上の結果を踏まえ,自他関係の基本的構造として,「主体間の両義的な力動的関係」という枠組 みを提示した。

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青年期の友人関係における自己表明と他者の表明を望む気持ち(柴橋祐子:東京学芸大学)

本研究では,青年期の友人関係の中での自己表明と他者の表明を望む気持ちの2側面を測定する尺度を作 成し,それをもとに発達的特徴を検討した。731名の中学・高校生に質問紙調査を行った。友人への自己 表明は「限界・喜びの表明」「意見の表明」「不満・要求の表明」「断りの表明」に分類された。高校生 は中学生に比べて「限界・喜びの表明」「意見の表明」を多く行うことが示された。男子は女子に比べ て「不満・要求の表明」を多く行い,女子は男子よりも「限界・喜びの表明」を多く行っていた。また, 他者の表明を望む気持ちは「相談・依頼を望む気持ち」「率直な断りを望む気持ち」「率直な抗議・注意 を望む気持ち」「独自な意見の表明を望む気持ち」に分類された。高校生は中学生に比べて「独自な意見 を望む気持ち」が強いことが示された。すべての因子で男女差が認められ,女子は男子に比べて友人の率 直な表明を望む気持ちを全般的に強く持っていた。さらに,2側面の関係を検討したところ,「限界・喜 びの表明」「意見の表明」は他者の表明を望む気持ちのすべての因子と有意な正の相関を示し,「不満・ 要求の表明」「断りの表明」は,他者の表明を望む気持ちのすべての因子とほとんど有意な相関が見られ なかった。これらの結果から,中学・高校生への主張性援助を行う際に考慮すべき点について論じた。

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問題行動の継続過程の分析:問題行動を巡る生徒関係のあり方から(加藤弘通:中央大学)

本研究の目的は,問題行動及び指導に対する生徒の意味づけを明らかにすることにより生徒同士の関係の あり方から問題行動の継続過程について検討することである。問題行動の繰り返しによって高校を中途退 学した少年F(18歳)を対象に17回のインタビューを行い,彼の問題行動や指導,自己に対する意味づ けを探った。また,Fと同時期に同校に在籍していた生徒4名へのインタビューから,他の生徒の問題行 動や指導,及び問題行動を起こす生徒(F)への意味づけを探った。そして,Fと他の生徒の意味づけを 比較し,問題行動を巡る生徒同士の関係のあり方から問題行動の継続過程について検討した。その結果, (1)問題行動・指導に対する意味づけは,生徒が置かれた状況によって異なること,それと対応して, (2)問題行動を起こす生徒も個々の生徒との関係に応じて,自らの問題行動に対して異なる意味づけをし ていることが明らかになった。Fは「悪ガキ」との関係において,問題行動を肯定的に意味づけ(「格好 いい」),親密な関係を築く一方で,悪ガキ以外の生徒との関係においては,問題行動を否定的に意味づけ, (「(自分は)抹消されている」),関係を希薄化させていた。このことから,Fが問題行動を起こすほど, そして,それに対する指導を受けるほど問題行動が繰り返されやすくなる生徒同士の関係が生じるという, Fの問題行動・指導を巡る循環関係の存在が示唆された。

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12巻3号

集団決定場面での「個人領域」の判断からみた権利意識の発達(木下芳子:横浜市立大学国際文化学部)

集団決定状況での「個人領域」についての認識の発達と個人領域について集団決定を是認する状況の要因をみるために3つの研究が行われた。研究1では,9歳,11歳,13歳,および大学生,計119名が被験者として参加した。参加者はある学級で子どもたちが集団決定しようとしている8つの仮説的場面が示された。各場面について,集団決定することの是非の判断,判断理由の記述,決定の拘束性についての判断,決定に違反したときの悪さの評定が求められた。低学年では個人領域の事柄でも集団決定してよいとする反応が多かったが,好み・嗜好に関するする事は最もはやくから,集団決定すべきでないとする反応が出てきた。個人にとって利点がある行為は大学生でも多くの者が集団決定を是認した。研究2には,8 歳,11 歳,13 歳,大学生,計120名が参加した。決定が拘束力があることが強調された場面で,研究1と同様のことが行われた。拘束力がある場合でも,全般的に結果は研究1と同様であった。研究3では同じ個人領域のことが集団の目標の有無,文脈のちがいなどの状況によって,集団決定が是認されるようになるかどうかが検討された。半分の場面で,状況によって判断が異なることが示された。個人領域の判断と権利意識の発達について考察された。
【キー・ワード】集団決定,個人領域,集団領域,権利意識,発達

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遅延提示された自己映像に関する幼児の理解:自己認知・時間的視点・「心の理論」の関連(木下孝司:神戸大学発達科学部)

本研究は,時間的視点の理解を必要とする幼児の自己認知を検討したものである。56 名の 3, 4, 5 歳児を対象に,被験児がゲームをしている最中,実験者はひそかに彼らの頭部にシールを装着し,その様子をビデオ撮影した。約 3 分後に,そのビデオ映像を提示してシールを発見して取るかどうかを調べた。以上のマークテスト実施後さらに,被験児自身ならびに実験者がシールに気づいた時点についての質問も行った。その結果,マークテストは 4 歳以降で可能となったが,マークテストに合格してもシールに気づいた時点を報告できない被験児が存在した。それに対して,シールに気づいた時点を自覚している被験児は,そうでない者に比べ,「心の理論」課題成績が良く,また他者に自己映像を見られることを忌避する者が多いことが明らかになった。以上の結果より,時間的視点を自覚的に理解することが,遅延提示ビデオ映像による自己認知ならびに「心の理論」の発達に関連することが示唆された。
【キー・ワード】自己認知,幼児期,時間的視点,心の理論

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幼児の仲間との相互作用のきっかけ:幼稚園における自由遊び場面の検討(松井愛奈:お茶の水女子大学大学院人間文化研究科・無藤隆:お茶の水女子大学生活科学部・門山睦:目白幼稚園)

幼児が自由に活動している状態で,どのようにして仲間との相互作用が生じるのかを検討した。幼稚園において,3歳児から4歳児の2年間,ビデオによる自由遊び場面の自然観察を行った。相互作用の開始場面について,特定の場面に限定することなく,また遊び集団の有無に関わらず,明示的,暗黙的双方の側面から詳細に捉えた。さらに,方略の種類だけではなく,仲間への働きかけに対する相手の反応,その結果の状態に至るまで流れレベルで分析をおこない,3歳児と4歳児の年齢差を比較検討した。その結果,幼児は相手の活動へ仲間入りするだけではなく,自分の活動へ相手をひき込んだり,新たな活動を一緒に開始したりしていること,また,直接的,明示的な方略により仲間と相互作用を求めるだけではなく,様々な暗黙的な方略により仲間との相互作用のきっかけをつかんでいることが見出された。年齢差については,3歳児は4歳児と比較して仲間の行動の模倣が多く,また相手の反応がなく,その後仲間との相互作用はないが一緒にそばにいるという状態が多いが,次第にそれは減少し,相手の活動への参加や,暗黙的な方略使用が増加した。しかし,4歳児後半になると,仲間を自分の活動へ誘い入れたり,自分に注意をひきつけたりすることが増加し,お互いに知り合ってきたことの影響が考えられる。また,幼稚園で慣例の「いれて」という明示的な仲間入り方略使用が増加した。
【キー・ワード】相互作用のきっかけ,方略,3歳児,4歳児

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幼児の描画行動に関する発達的研究:描画対象に関する知識は視覚的リアリズムを妨げるか?(田口雅徳:広島大学教育学研究科)

本研究では,幼児の描画特性である知的リアリズム反応の原因として,知っている情報を伝えようとする子どもの積極的意図があると仮定し,その検討をおこなった。被験児は4歳から6歳までの幼児169名であった。被験児の描画対象に関する知識量を操作するため,描画前に描画対象である人形について描く部分(背面)しか見せない条件(部分条件)と,人形の全体を見せる条件(全体条件)の2条件を設定した。描画時にはどの被験児にも人形の背面側を呈示し,それを見えているとおりに描くよう教示した。結果から,5歳児においては全体条件より部分条件の方が見えどおりの描画が多いことが示された。また,見えどおりの描画は,部分条件では加齢にともない増加する傾向が見られ,一方,全体条件では4歳から5歳にかけて減少し,5歳から6歳にかけて増加した。さらに,見えどおりではない描画反応を,対象固有の情報が反映されているかどうかという観点から2カテゴリに分類し,その発達的変化を検討した。その結果,4歳児では対象の標準型を描く反応が多く,加齢に伴い対象固有の情報を伝達するようなコミュニケーション型の描画反応が多くなった。これらの結果から,5歳児以降では,描画対象固有の情報を考慮し,それを描がこうとするために,知的リアリズムによる描画が生じているのではないかと考察された。
【キー・ワード】幼児,描画行動,知識量,視覚的リアリズム,知的リアリズム

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中年期夫婦のコミュニケーション態度:夫と妻は異なるのか?(平山順子:白百合女子大学大学院文学研究科・柏木惠子:白百合女子大学大学院文学研究科)

本稿は,核家族世帯の中年期の夫と妻554名(夫婦277組)を対象に,夫婦間コミュニケーションの様態を検討した。夫と妻とをコミュニケーションを構成する 2 つの単位(個人)と捉え,夫と妻とのコミュニケーション態度の相違を検討した。加えて,相手(配偶者)へのコミュニケーション態度と夫婦の学歴及び妻の経済的地位との関連性を検討した。主な結果は次のようである。(1)夫婦間コミュニケーション態度は,「威圧」「共感」「依存・接近」「無視・回避」の 4 次元から成る。(2)相手へのコミュニケーション態度得点(自己評定)を夫婦間比較した結果,ポジティブなコミュニケーション態度である「共感」と「依存・接近」では妻のほうが有意に高く,他方,ネガティブなコミュニケーション態度である「無視・回避」と「威圧」では夫のほうが有意に高かった。また,相手へのコミュニケーション態度のうち,夫に最も顕著な態度は「威圧」,妻に顕著な態度は「依存・接近」であった。(3)夫・妻とも,相手へのコミュニケーション態度について,夫婦の学歴による差は見出されなかった。(4)夫の妻へのコミュニケーション態度のうち,「共感」において妻の経済的地位による差がみられ,妻の経済的地位が高いほど,夫は妻に対して共感的なコミュニケーション態度をとる傾向が明らかにされた。夫と妻とが対照的に異なるコミュニケーション態度をとる背景には,性的社会化の影響,男女間の社会的・経済的地位の格差があると推察される。
【キー・ワード】コミュニケーション態度,中年期の夫婦,夫婦関係,妻の経済的地位

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幼児の心的な比喩の理解:心は容器か,物体か,動作主か?(富田昌平:山口芸術短期大学保育学科)

心的な比喩に対する6歳児の理解を3つの実験によって検討した。本研究では,子どもは3つの領域における心的な比喩に対する解釈を求められた。つまり,容器比喩(例えば,「心が空っぽである」),物体比喩(例えば,「気が重い」),動作主比喩(例えば,「気持ちが足踏みしている」)の3つである。実験1では,16 名の子どもが,比喩文に対する正しい解釈と誤った解釈という2つの絵画ストーリーを提示され,比喩文と対応するものを選択するよう求められた。実験2と3では,各20名の子どもが,比喩文に対する比喩的な正しい解釈,比喩的だが誤った解釈,字義的な解釈,無関連の解釈という4つの絵画ストーリーを提示され,実験1と同様のことを求められた。3つの実験で,子どもの大部分は,動作主比喩よりも容器比喩において正答を多く選択した。以上の結果は,幼児が持つ心のイメージという点で考察された。
【キー・ワード】心的な比喩,心のイメージ,絵画的文脈,幼児

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