日本発達心理学会

発達心理学研究

審査の基本方針(2022年8月施行)

「発達心理学研究」編集委員会

I.審査の目的

 「発達研究の向上と活発化に資する発達心理学及びその周辺領域の質の高い、多様な研究を掲載する」(編集規則第2条)という本誌の役割を果たすため、本誌への投稿原稿は全てピアレビューによる審査の対象となります。

II.審査の方針

 本誌ではインパクト中心主義に基づく審査を実施しています。これは、@論文の欠点よりも価値や影響力(インパクト)を積極的に評価するとともに、A「修正再審査」の判定を1回限りとし、審査を迅速化することを柱とした審査方針です。しばしば誤解されがちですが、インパクト中心主義は、突出したインパクトを持つ論文のみを採択するという審査方針ではありません。むしろ、それぞれの論文の持っている独自の良さを積極的に認め、基礎研究から応用研究、探索的研究から確証的研究、質的研究から量的研究、事例研究から大規模研究まで、できる限り多様な論文の掲載を目指すものです。審査者も一人の研究者である以上、自身の立場や慣習から離れることは難しく、審査の過程で「無欠点」や「完全」を目指そうとすれば、そこにはおのずと審査者の主観やこだわりが入り込むことになります。それは、かえって論文の独自性や面白みを低下させ、著者の研究意欲を削ぐことにもなりかねません。本誌では、こうした「無欠点主義」を克服し、発達研究としての価値や影響力があれば積極的に受け入れ、時には学会員や後続の研究者に評価を委ねるという寛容な姿勢で審査を行うことを目指します。

III.審査の方法

 電子投稿窓口より投稿された原稿は、事務局による形式的なチェックを経て、編集委員会に受稿されます。編集委員長および副編集委員長(以下、正副委員長)が原稿の内容を確認し、研究領域等を考慮して1名の担当編集委員を割り当てます。担当編集委員により当該原稿の研究領域を専門とする2名の審査者が選定されます(審査者に著者の氏名や所属などの個人情報は開示されません)。審査者はそれぞれ独立に審査を行い、その結果を担当編集委員に報告します。担当編集委員は、審査者2名の意見を参考に審査結果を取りまとめ、正副委員長および編集委員会に報告します。ただし、「原著論文」として投稿された論文で、担当編集委員が「報告論文」や「実践論文」としての掲載が妥当であると判断した場合、論文種別を変更した上で審査結果を取りまとめます。正副委員長および編集委員会による承認の後、審査結果が著者に通知されます。

IV.審査の基準

 審査にあたって、2名の審査者は、それぞれ以下の流れで掲載可否の判定を行います。

 

1.倫理上の疑義について

 いずれかの審査者が論文に倫理上の重大な疑義(二重投稿、剽窃、研究参加者への危害など)があると判定した場合、その時点でいったん審査の過程が中断され、編集委員会での協議に基づき、著者への問い合わせ、論文の差し戻し、審査の再開などの対応が行われます。

2.研究のインパクトの評価

 インパクトとは、その論文において報告された研究の学術的および社会的な価値や影響力を意味します。研究そのものの固有な性質であるため、基本的に事後的な修正が困難な要素です。具体的には、以下のような観点から構成されますが、下表の通り、論文種別によって、重視される観点が異なります。

オリジナリティ:着眼点のおもしろさ、研究方法の独自性、研究結果の新規性、今後の発展可能性、新たな議論を喚起する可能性など
クオリティ:洗練された研究デザインの設定、優れた測定方法や課題の使用、収集されたデータの質・量、知見の再現可能性など
社会的意義:研究課題の社会的重要性、臨床・教育・育児支援などの実践への示唆、政策上の議論への貢献、社会的な波及効果など

[原著論文]研究の性質に応じて重点の置かれ方が異なり、必ずしも全ての要素を高いレベルで兼ね備えていることが掲載の必要条件となるわけではありません。例えば、

[報告論文]「発達に関係のある課題・テーマに関する研究の簡潔な報告(原則として本誌刷り上がり8ページ以内)」(編集規則 第 14 条)であり、以下のような内容を含みます。

 個々の論文の目的や性質に応じて、それぞれの持つインパクトを柔軟かつ積極的に評価します。

[実践論文]「発達に関係のある課題・テーマに関する実践を伴う研究論文」(編集規則第 13 条)であり、審査にあたっては、学術的な意義(オリジナリティ、クオリティ)よりも実践的な意義を重視して評価を行います。例えば、先行研究のレビュー、理論的基盤、研究デザイン(統制群の設定など)、測定方法、統計分析などが十分に洗練されたものでなくとも、保育・教育、心理臨床、育児支援などの実践に豊かな示唆をもたらす研究であれば、「実践論文」としての掲載に値します。

 論文種別にかかわらず、論文投稿に際しては、研究のインパクトが読み手(審査者、担当委員を含む)に明確に伝わるよう、要約(アブストラクト)の下部に研究のインパクトを記載していただきます。これは審査の過程で研究のインパクトがより適正に評価されるだけでなく、研究者以外の読者(実践者、行政担当者、政策立案者など)にも広く研究の意義が伝わることを目的としたものです。上述したインパクトの定義や評価の観点(オリジナリティ、クオリティ、社会的意義など)を踏まえ、研究のインパクトをわかりやすく記載してください。以下に記載例を示しますが、研究のインパクトは文脈や目的によって様々であり、必ずしもこれらの例に縛られる必要はありません。

本研究は自由時間の過ごし方が小中学生の心理社会的適応に及ぼす影響について,@縦断調査による経時的な効果の検証,A大規模データによる正確な効果量の推定,B多変量アプローチによる疑似相関の調整という方法論的工夫のもとに検証を行った初めての試みである。認知処理を伴う活動が学業面の適応を予測する一方,社会情緒的な発達には他者との相互作用を伴う活動が寄与しており,多様な活動への参加を促す重要性が示唆された。
伊藤大幸ほか. (2021). 小中学生の自由時間の活動が心理社会的適応に及ぼす影響に関する縦断的検証. 発達心理学研究, 32(2), 91-104.

これまで本邦においては症例報告や医療機関受診者を対象とした報告が多かった小中学生の性別違和感(身体的性別と心理的性別のずれ)について,独自の質問紙尺度を開発し,コミュニティベースでの調査を行った。性別違和感が内在化問題(抑うつ)および外在化問題(攻撃性)の双方と関連すること,また,内在化問題との関連は中学生男子で特に強いことを実証し,性別違和感を抱える小中学生への心理的支援の重要性が明らかとなった。
浜田恵ほか. (2016). 小中学生における性別違和感と抑うつ・攻撃性の関連. 発達心理学研究, 27(2), 137-147.

乳児の心に目を向ける母親の傾向(mind-mindedness:MM)が幼児期の心の理解能力に及ぼす影響を縦断的に検証した。生後6ヵ月時の母親の MM は,子の感情や欲求等について話しかける頻度を介して,4 歳児の感情理解と語彙能力の高さを予測した。一方,3・4 歳時点の欲求や信念理解は,中程度の MM を持つ母親の子が最も優れていた。母親の MM による子の発達への促進的影響には複数のパターンがあり,それぞれの影響機序を検討する重要性を示した。
篠原郁子. (2011). 母親の mind-mindedness と子どもの信念・感情理解の発達: 生後 5 年間の縦断調査. 発達心理学研究, 22(3), 240-250.

本研究では就学前児の他者から好ましく評価されようとする行動(評判操作)について,@他者に見られているときに自身の良い評判と悪い評判のどちらに関心を持つのか,A目のイラストの存在でも効果があるのか否かを検証した。5 歳児は悪い評判を持たれることに対して敏感であり,目のイラストではなく実在の他者から観察されている際に戦略的に評判操作を行うことが明らかとなった。
奥村優子ほか. (2016). 幼児は他者に見られていることを気にするのか: 良い評判と悪い評判に関する行動調整. 発達心理学研究, 27(3), 201-211.

高齢者の次世代への利他的行動と心理的発達に対する次世代との相互作用の影響について,先行研究の多くが調査的手法を用いていたのに対し,本研究では新たに実験的手法と質的分析を用いて明らかにした。高齢者の行動の内容と聴き手からの反応を厳密に統制,操作できる実験的手法を用いることで,高齢者と若者の実際の相互作用場面をダイナミックに捉えることができた。
田渕恵・三浦麻子. (2014). 高齢者の利他的行動としての 「語り」 に与える世代間相互作用の影響: 実験場面を用いた検討. 発達心理学研究, 25(3), 251-259.

3.形式上の問題の評価

形式上の問題とは、発達心理学の研究論文に求められる形式的な要件に関する問題を意味します。研究そのものでなく論文の形式に関する問題であり、基本的に事後的な修正が可能な要素です。具体的には、本文の表記・表現、図表の示し方などの比較的軽微な要素から、論理構成、先行研究のレビュー、データの分析方法、分析結果の考察など、研究のインパクトの評価にも関わる要素までが含まれます。
形式上の問題については、修正すべき点の多寡ではなく、研究のインパクトを実質的に損なわない範囲で修正による対応が可能であるか否かを具体的に評価します。例えば、先行研究のレビューが不足している場合は、不足している文献を引用することで、研究のオリジナリティがどの程度損なわれるかを評価します。また、データの再分析が必要となる場合は、再分析によって結論にどのような影響が生じるかを評価します。一方で、表記・表現や図表の示し方などの比較的軽微な問題は、原則的に、その数が多いというだけで掲載不可の判定につながることはありません。

4.最終的な評価

インパクトや形式上の問題の評価を踏まえて掲載可否の判定が行われます。インパクトが認められ、かつ、形式上の問題に対応可能(形式上の問題がない場合を含む)と判定された場合、最後に、論文に実質的な修正の必要(編集委員会で修正箇所の再確認が必要と思われる事項)があるか否かが判定されます。実質的な修正の必要がないと判定された場合、審査結果は「A:掲載可」、必要があると判定された場合、審査結果は「B:条件付き掲載可」となります。
インパクトや形式上の問題について、判断が困難であると判定された場合、審査結果は「C:修正再審査」となります。ただし、迅速な審査のため、修正再審査の判定が行われるのは1度限りです。また、修正原稿の再審査は原則的に担当編集委員のみが行い、2名の審査者は再審査に加わりません。
インパクトが認められない、または、形式上の問題に対応困難であると判断された場合、審査結果は「D.掲載不可」となります。

V.原稿の修正と再投稿

「A:掲載可」と判定された場合、刊行に向けて出版社および著者による校正のプロセスに入ります(校正に先立って、編集委員会より軽微な修正が求められることもあります)。これ以降、表記・表現などの軽微な修正を除き、原稿に実質的な修正を加えることはできません。ただし、何らかの重大な誤りなどを発見し、大幅な修正が必要と判明した場合は編集委員会事務局(office@jsdp.jp)にご連絡ください。
「B:条件付き掲載可」または「C:修正再審査」と判定された場合、編集委員会から著者に修正のための意見が示されます。著者には、それぞれの意見に応じて修正を行うか、修正が必要ないと考えられる場合はその理由を提示することが求められます。修正原稿および修正対照表(個々の修正意見に対して、どのように修正を行ったか、または、なぜ修正を行わなかったかを記した書類)の提出期限は原則として3か月後です。期限の延長を希望する場合は事務局(office@jsdp.jp)にご相談ください。
なお、修正意見への対応のために規定の分量(原著論文・実践論文は 12 ページ、報告論文は 8 ページ、展望論文は 15 ページ、意見論文は 2 ページ)を超過する場合は、理由書の記載を考慮し柔軟に対応します(ただし冗長と判断される超過は認められません)。また、通常、「報告論文」の長さは原則として本誌刷り上がり 8 ページ以内としていますが、編集委員会により「原著論文」から「報告論文」に種別が変更された場合に限り、「原著論文」と同様の刷り上がり 12 ページ以内とします。
「D:掲載不可」と判定された場合、編集委員会から掲載不可とする理由が示され、審査が終了します。審査結果に異議があるときは、審査結果通知後6カ月以内に編集委員会へ書面により反論を申し述べることができます。