日本発達心理学会

代表理事挨拶

第5代 代表理事
仲真紀子

 皆様こんにちは。2024年3月31日の理事会で代表理事を仰せつかりました仲真紀子と申します。第4代目の代表理事秋田喜代美の後任となります。
 発達心理学会との付き合いは長く,発起人として学会の発足に立会い,その後も常務理事や編集委員長として運営にも携わってまいりました。この数年は代議員であり,常務理事会の活動についてはかなり疎いところがございます。改めて学び,心して努めてまいります。事務局長は,江尻桂子先生,そして副事務局長には,これまで事務局長としてお支えくださった成田健一先生が就任してくださいました。
 代表理事としての抱負を,ということで,学会に期待したいことを書いてみたいと思います。発達心理学会の目的を紐解きますと,「発達研究に関心をもつ者が,知識・技術の交流と親睦をはかり,発達心理学及びその近接領域における研究とその実践活動の発展に寄与すること」とあります(定款第3条)。そして,これを推進していくために,以下の事業が掲げられています(第4条)。
(1) 研究交流の推進
(2) 年次大会の開催 
(3) 機関誌『発達心理学研究』の発行
(4) ニューズレターの発行及びインターネット・ニューズの配信
(5) 研究会・講演会・講習会等の開催
(6) 内外の関係諸団体との交流
(7) その他,目的を達成するために必要な事業
 私たちを取り巻く昨今の,下記のような状況に鑑みれば,これらの事業はますます重要なものと思えてまいります。
 第一は,若手研究者の育成とダイバーシティの推進が喫緊の課題である,ということ。日本の人口は2004年をピークに急激に減少し,2050年には12700万人から9500万人になるといいます(2004年の25%減)。とりわけ15-64歳の生産年齢人口は8400万人から4930万人へと減少(2004年の4割減,2050年人口の約5割です)。発達心理学会の会員数は現在約3600人ですが,これが25%減となれば2700人,うち64歳までの会員が半数の1370人となったら,どうでしょう。会員の半数が職業から解放され,学会運営が活性化する,ということはあるかもしれませんが,研究や教育は減速する可能性があります。学会の種々の事業を通して,とにもかくにも若手,そして相対的に数が少ない女性,外国人の会員も増やしていくことが必須だと思われます。
 第二は,研究に求められる社会的インパクトです。気候変動,食料問題,(上とも重なりますが)少子高齢化,経済格差,暴力(身体的,性的虐待,いじめ,DV ・・),国際情勢等々。こういった状況において発達心理学は何ができるのか。発達心理学の特徴の一つは様々な研究領域と交差する学際性です。社会課題の要請を受けて研究が進み,その成果が社会課題の解決につながるというサイクルがますます重要になっているように思われます。フロントラインの実践家や実務家,行政・政策立案に携わる方たちとの絆は一朝一夕では築けません。学会の種々の事業を通して課題を共有し,協働し,インプットとフィードバックを繰り返していくことが必要です。
 第三も上と重なるところですが,分野の融合,とくに自然科学,科学技術領域との連携です。2021年,科学技術基本法が科学技術・イノベーション基本法となり,「人文科学」という文言が加わりました(「自然科学と人文科学との相互の関わり合いが科学技術の進歩及びイノベーションの創出にとって重要である」)。生成AIの日毎の進化,デジタルツイン,スマートシティ,宇宙探索,深海探索,遺伝子編集などの加速は目を見張るばかりです。日々刷新されていく世界の中で人の行動や思考,感情,時間軸に伴う発達的変化の要素が抜け落ちてしまうことがないように,自然科学・科学技術領域との連携はとても重要だと感じています。
 こういった状況−−若手・ダイバーシティ,社会課題,自然科学・科学技術との連携,もちろんこれに留まりませんが−−を認識しつつ,秋田前代表理事,皆様のご尽力を礎とし,発達心理学会の種々の事業を一緒に進めていければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。



2024年3月31日