発達心理学研究第29巻(2018年)


29巻1号


◆小川 基・高木 秀明:母親から子どもへのゆるしのプロセスとその特徴:青年期の子どもとその母親を対象とした質的研究

母子関係におけるゆるしについては,これまで古澤平作による阿闍世コンプレックス理論などを中心に精神分析的な考察が深められてきた一方で,実証的には十分に検討されてこなかった。本研究では,母親から子どもへのゆるしのプロセスを明らかにすることを目的とし,調査,分析を行った。具体的には,母親10名に対して「母親が子どもをゆるすプロセス」について,またその子どもである青年12名に対して「子どもが母親からゆるされるプロセス」についてのインタビュー調査を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。その結果,双方において4段階のゆるす/ゆるされるプロセスモデルが生成された。これらの結果より,母親は子どもからの傷つき・困らされ体験後も,自らの親としての機能を維持しようと努めること,また,それが結果的に子ども側のゆるされた実感につながっていることが明らかとなった。同時に,ゆるす側としての母親とゆるされる側としての子どもとの間に生じうる認識のずれや,それに伴う母子関係における臨床的問題について考察を行った。
【キーワード】ゆるし,母子関係,阿闍世コンプレックス,M-GTA

29巻の目次に戻る


◆高崎 文子:「ほめへの態度」の発達的変化とその関連要因の検討

他者をほめることが効果的であるとは限らない原因のひとつに,ほめられる側とほめる側のほめのとらえ方のズレがあると考えられる。本研究ではほめの機能や効果のとらえ方の個人差を「ほめへの態度」としてとらえ,その発達的変化と態度形成要因について検討することを目的とした。
中学生,高校生,大学生,成人の計1058名を対象に,ほめへの態度とほめ/ほめられ経験に関する質問紙調査を行った。その結果,「ほめへの態度」は年齢とともに「承認重視」「用い方重視」の態度が強くなり,「基準重視」「表出躊躇」の態度が弱くなることが明らかになった。また「ほめへの態度」形成に影響を与えるほめ/ほめられ経験について検討した結果,ほめられた経験の量よりも,どのようにほめられたかという経験の質から直接影響を受けることが明らかになった。また,ほめた経験は,その頻度がコミュニケーション効果を媒介して態度形成に影響を与えることが明らかになった。
【キーワード】ほめ,ほめへの態度,ほめ/ほめられ経験

29巻の目次に戻る


◆長岡 千賀:発達障害についての記述方法が資料の読み手の態度に及ぼす影響

発達障害に関する啓発資料がさまざまな団体によって作成されているが,その読後の印象は資料によって異なるように見受けられる。本研究の目的は,資料上のいかなる記述方法が,発達障害児者との交流に対する読み手の態度に影響するかを特定することである。実験に先立ち既存の啓発資料を分析し,その結果から,本実験の刺激では具体性の高低と関わりの記述の有無の2要因を操作することを決定した。実験ではまず,実験参加者は,発達障害様の特徴を持たない学生(以降「普通学生」)に対する交流抵抗感を回答した。次に実験参加者は,4種類の資料のうちの1つを読んだ後(被験者間要因),発達障害様の特徴を持つ学生(以降「特徴的学生」)に対する交流抵抗感を回答した。回答に不備のない218名分の回答を分析した。混合モデル分析の結果から,第1に,具体性が高い資料の読み手ほど特徴的学生と一緒に何かをする場面で抵抗感が低いこと,第2に,関わりに関する記述があっても特徴的学生に対する交流抵抗感は高まらないことが示された。また,結果は,特徴的学生との本音で付き合う場面では男性の方が女性よりも交流抵抗感が低いこと,普通学生に対する交流抵抗感が低い者ほど特徴的学生に対する交流抵抗感も低いこと,しかしその傾向には性差があることも示した。結果について社会心理学的知見を踏まえながら考察し,さらには,発達障害に関する資料作成の指針を提案した。
【キーワード】発達障害,態度,ステレオタイプ,具体性

29巻の目次に戻る


◆蒲谷 槙介:歩行開始期乳児の不従順行動に対する母親の調律的応答:歩行不可期における応答との一貫性

近年,アタッチメント安定型の母親が乳児のネガティブ情動表出に対して行いやすい共感的反応の一種である「調律的応答」へ着目する向きが高まっている。これに関して蒲谷(2013)は,生後7ヶ月の乳児のネガティブ情動表出に対してアタッチメント安定傾向の母親が「ポジティブ表情を伴った心境言及」を行いやすいことを見出した。本研究では40組の新たな母子サンプルを対象に,歩行開始期乳児(14ヶ月齢児)の不従順行動(片付け場面においておもちゃを新たに箱から出す等)によって生じる母子間葛藤状況においても,アタッチメント安定傾向の母親が調律的応答を行うのかどうかが縦断的に検討された。乳児の情動表出に対する母親の表情変化および発声発話による反応を,対象児が8ヶ月齢時,14ヶ月齢時に観察した。回帰分析の結果,歩行開始期の乳児(生後14ヶ月)の怒り情動および不従順行動を伴う母子間葛藤状況において,アタッチメント安定傾向の母親は「無表情のままの心境言及」をしやすいことが示された。またこの傾向は,歩行不可期の乳児(生後8ヶ月)のネガティブ情動表出に対する母親の応答と縦断的に一貫しており,アタッチメントスタイルが安定的な母親は継続的に子どものネガティブ情動を共感的に言語化できることが示唆された。
【キーワード】調律的応答,アタッチメント,歩行開始期乳児,縦断的観察

29巻の目次に戻る