発達心理学研究第25巻(2014年)   


25巻1号

◆ 外山 美樹・樋口  健・宮本 幸子:高校受験期における母親からのソーシャル・サポートが子どもに与える影響

高校受験が終わった半年後に,高校1年生とその母親3,085組を対象に,高校受験に関する振り返り調査をインターネット上で実施し,高校受験期における悩みやストレス,高校受験を振り返っての認知(高校受験の経験がどのような意味をもつのか)についての実態を把握することを目的とした。また,こうした高校受験期における悩みやストレス,高校受験を振り返っての認知において,母親からのソーシャル・サポートがどのように影響を及ぼすのかを検討した。本研究の結果から,進学率が100%に近い高校への受験においても,子どもは様々な悩みやストレスを抱いていることが示された。また,多くの者が受験を通して自己への成長感を獲得するとともに,学業への充実感を感じており,高校受験をプラスの経験と捉えていることが明らかになった。母親からのソーシャル・サポートにおいては,高校受験の悩みやストレスを促進するソーシャル・サポートのネガティブな影響が見られた一方で,母親からのソーシャル・サポートが高い者は,受験を通して自己の成長感や学業の充実感をより強く感じているといったソーシャル・サポートのポジティブな影響も見られることが示された
【キーワード】高校受験,ソーシャル・サポート,ストレス,成長感

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◆ 平川久美子:幼児期から児童期にかけての情動の主張的表出の発達:怒りの表情表出の検討

本研究では,情動表出の制御における主張的側面,とりわけ幼児期から児童期にかけての怒りの主張的表出の発達について検討を行った。調査は年中児,年長児,1年生の計110名を対象として行われ,仮想場面を用いた課題が個別に実施された。まず,主人公が友だちから被害を受ける状況で,主人公が友だちに加害行為をやめてほしいと伝えたいという意図伝達動機をもっているという仮想場面を提示し,そのときの主人公の表情を怒りの表出の程度の異なる3つの表情から選択し,理由づけを行うよう求めた。課題は,怒りを表出する際に言語的主張をせず表情のみで表出する表情課題(2課題),表情表出と併せて言語的主張を行う表情・言語課題(2課題)の計4課題であった。その結果,言語的主張をしない場面では年中児よりも年長児・1年生のほうが表情で怒りをより強く表出すること,1年生では言語的主張をする場合よりもしない場合のほうが表情で怒りをより強く表出することが示された。本研究から,仮想場面における怒りの主張的表出は年中児から年長児にかけて顕著に発達すること,また1年生頃になると表情と言語という情動表出の2つのモードの相補的な関係を理解し,情動表出を行うようになることが示唆された。
【キーワード】情動の主張的表出,怒り,表情,幼児,児童

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◆ 岡本 依子・菅野 幸恵・東海林麗香・高橋 千枝・八木下(川田)暁子・青木 弥生・石川あゆち・亀井美弥子・川田  学・須田  治: 親はどのように乳児とコミュニケートするか:前言語期の親子コミュニケーションにおける代弁の機能

親はまだしゃべらない乳児と,どのようにやりとりができるのだろうか。本研究は,前言語期の親子コミュニケーションにおける代弁の月齢変化とその機能について検討するため,生後0〜15ヶ月の乳児と母親とのやりとりについて,代弁の量的および質的分析,および,非代弁についての質的分析を行った。その結果,代弁は,「促進」や「消極的な方向付け」,「時間埋め」,「親自身の場の認識化」といった12カテゴリーに該当する機能が見いだされた。それらは,「子どもに合わせた代弁」や「子どもを方向付ける代弁」,および,「状況へのはたらきかけとしての代弁」や「親の解釈補助としての代弁」としてまとめられ,そこから,代弁は子どものために用いられるだけでなく,親のためにも用いられていることがわかった。また,代弁の月齢変化についての考察から,(1)0〜3ヶ月;代弁を試行錯誤しながら用いられ,徐々に増える期間,(2)6〜9ヶ月;代弁が子どもの意図の発達に応じて機能が限られてくる期間,(3)12〜15ヶ月;代弁が用いられることは減るが,特化された場面では用いられる期間の,3つで捉えられることが示唆された。そのうえで,代弁を介した文化的声の外化と内化のプロセスについて議論を試みた。
【キーワード】代弁,親子コミュニケーション,前言語期,縦断研究

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◆ 近藤 龍彰: 幼児期における「わからない」反応の発達的変化:「わからない」状態の視覚化手続きを通して

本研究は,幼児は答えられない質問に適切に「わからない」と回答するのか,およびその発達的変化を検討した。年少児27名(男児15名,女児12名,平均月齢49.81カ月),年中児31名(男児16名,女児15名,平均月齢61.45カ月),年長児34名(男児19名,女児15名,平均月齢73.74カ月)を対象に,3つの課題を行った。いずれの課題でも,幼児に答えがわかるだけの十分な情報を示した質問(答えられる質問)と,情報を示していない質問(答えられない質問)を行った。また,幼児の「わからない」という反応を引き出しやすくするために,「わからない」ことを視覚的に示す選択肢(「?」カード)を用意した。その結果,年少児時点でも答えられない質問に対して,適切な「わからない」反応を行うこと,「わからない」反応は年中段階で低下することが示された。さらに,明確な「わからない」反応以外にも「わからない」ことを示す非言語的な指標が存在することが示唆された。このことより,「わからない」反応を行える年齢が,先行研究で示されているよりも年齢の低い時期にまで拡張されること,年少児と年中児では「わからない」反応を行うことの意味が異なってくることが示唆された。
【キーワード】幼児,「わからない」反応,答えられない質問,視覚化

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◆ 山田 真世: 幼児期の描画における意図の発達:命名行為の変化の検討

幼児期の子どもにとって,絵は他者との重要なコミュニケーションツールの1つである。日常保育場面では,幼児が自身で描いた絵を説明することが多々あるが,その絵は技術不足から本来の描画意図とは異なって他者に解釈をされることもある。本研究はこのような絵に関するミスコミュニケーション場面を設定し,幼児期の絵の命名行為の変化から,描画意図の発達を明らかにすることを目的とした。2歳クラスから5歳クラスの子どもにおいて,事前の命名を行い,参加児に描画意図を持って絵を描くように促す条件(以下,事前命名あり条件)と,形を真似て描くだけの条件(以下,事前命名なし条件)を設定した。その後,絵を描くところを見ていない実験者が,「何の絵か」,幼児の絵の説明以外にも「他の物(例えば赤信号)にも見えるが,どちらの絵か」「最初に何を描こうとしたのか」を尋ねた。結果,2歳クラスの子どもでは事前に描く対象を定めていても,描画後には同じ絵に異なる命名を行っていた。一方で,3歳クラスから5歳クラスの子どもは描画後に他者からの異なる命名を受けても,最初の自身の描画意図を自覚した回答が可能であった。さらに5歳クラスの子どもでは,自身の絵について,他者からの見えと自身の描画意図を比較し調整する反応が見られた。
【キーワード】描画,意図,命名行為

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◆ 田中 善大・伊藤 大幸・高柳 伸哉・原田  新・染木 史緒・野田  航・大嶽さと子・中島 俊思・望月 直人・辻井 正次: 保育記録による発達尺度(NDSC)を用いた学校適応の予測:保育所年長時から小学1年時までの縦断調査を通して

本研究では,保育所の年長児に対する縦断調査によって,保育士が日常業務で作成する「保育記録」を心理学的・精神医学的観点から体系化した「保育記録による発達尺度(Nursery Teacher's Rating Development Scale for Children: NDSC)」と学校適応との関連及びNDSCを用いた小学校での適応の予測について検討した。単一市内全保育所調査によって386名の園児に対して保育所年長時にNDSCを実施した後,小学校1年時に教師評定による小学生用学校適応尺度(Teacher's Rating Scale for School Adaptation of Elementary School Students [All student version]: TSSA-EA)を実施した。相関係数の分析の結果,NDSCと学校適応との関連が示された。重回帰分析の結果,学校適応の下位尺度である学業面,心身面,対人面,情緒面のそれぞれの不適応を予測するNDSCの下位尺度が明らかになった。重回帰分析の結果に基づくリスクの分析の結果,重回帰分析によって明らかになった下位尺度が,学校適応のそれぞれの側面を一定の精度で予測することが示された。
【キーワード】保育記録,Nursery Teacher's Rating Development Scale for Children (NDSC),縦断調査,学校適応

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◆ 畑野 快・原田 新: 大学生の主体的な学習を促す心理的要因としてのアイデンティティと内発的動機づけ:心理社会的自己同一性に着目して

本研究の目的は,心理社会的自己同一性が内発的動機づけを媒介して主体的な授業態度に影響を及ぼすモデルを仮説モデルとし,その実証的検討を行うことで,大学生が主体的な学習を効果的に獲得する方策として心理社会的自己同一性,内発的動機づけの果たす役割について示唆を得ることであった。仮説モデルを実証的に検討するために,大学1年生131名,大学2年生264名,3年生279名の合計674名を対象とした質問紙調査を実施した。まず,媒介分析の前提を確認するため,学年ごとに心理社会的自己同一性,内発的動機づけ,主体的な授業態度の相関係数を算出したところ,全ての学年において3変数間に正の関連が見られた。次に,多母集団同時分析によってモデル適合の比較を行ったところ,仮説モデルについて学年を通しての等質性が確認された。最後に,仮説モデルをより正確に検証するため,ブートストラップ法によって内発的動機づけの間接効果を検証したところ,1〜3年生全ての学年において内発的動機づけの間接効果の有意性が確認された。これらの結果から,1〜3年生全ての学年において仮説モデルが検証され,大学生が主体的な学習を効果的に行う上で心理社会的自己同一性,内発的動機づけが重要な役割を果たす可能性が示された。
【キーワード】大学生,アイデンティティ,内発的動機づけ,主体的な学習

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◆ 西田裕紀子・丹下智香子・富田真紀子・安藤富士子・下方 浩史: 高齢者における知能と抑うつの相互関係:交差遅延効果モデルによる検討

本研究では,地域在住高齢者の知能と抑うつの経時的な相互関係について,交差遅延効果モデルを用いて検討することを目的とした。分析対象者は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査に参加した,65〜79歳の地域在住高齢者725名(平均年齢71.19歳;男性390名,女性335名)であった。第1次調査及び,その後,約2年間隔で4年間にわたって行われた,第2次調査,第3次調査において,知能をウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(WAIS-R-SF),抑うつをCenter for Epidemiologic Studies Depression(CES-D)尺度を用いて評価した。知能と抑うつの双方向の因果関係を同時に組み込んだ交差遅延効果モデルを用いた共分散構造分析の結果,知能は2年後の抑うつに負の有意な影響を及ぼすことが示された。一方,抑うつから2年後の知能への影響は認められなかった。以上の結果から,地域在住高齢者における知能の水準は,約2年後の抑うつ状態に影響する可能性が示された。
【キーワード】知能,抑うつ,高齢者,交差遅延効果モデル

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◆ 渡辺 大介・湯澤 正通・水口 啓吾: 小学生による算数の作問におけるワーキングメモリの役割

本研究では,小学校2,3年生(N=160)による減算の求補場面と求差場面の作問課題における言語性ワーキングメモリおよび視空間性ワーキングメモリの役割を検討した。言語性ワーキングメモリおよび視空間性ワーキングメモリの高低群によって作問課題に対する解答内容の違いを調べた結果,求補場面では,言語性ワーキングメモリ得点の高い児童は低い児童に比べて,式と絵の両方に対応している解答を多く行った。一方,視空間性ワーキングメモリにおいては,このような偏りは見られなかった。他方,求差場面では,視空間性ワーキングメモリ得点の高い児童は低い児童に比べて,式と絵の両方に対応している解答を多く行った。一方,言語性ワーキングメモリにおいては,このような偏りは見られなかった。これらの結果から,求補場面と求差場面の作問課題においてそれぞれ言語性ワーキングメモリと視空間性ワーキングメモリが異なる働きをしていること,これらの問題理解の支援において異なるアプローチをとる必要がある可能性が示唆された。
【キーワード】児童,ワーキングメモリ,作問,減算

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◆ 津田 知春・高橋  登:日本語母語話者における英語の音韻意識が英語学習に与える影響

日本語を母語とする日本人中学生の英語の音韻意識と英語語彙,スペルの知識との関係が実験的に調べられた。スペルの知識は,オンセット・ライムが実在の単語と共通の偽単語を聴覚呈示し,それを書き取らせた。また,音韻意識はStahl & Murray(1994)を参考にして,英単語からの音素の抽出,音素から単語の混成,および日本語の音節構造を持つ単語・偽単語の音素削除課題が用いられた。全体で73名の中学校1年生,2年生が実験に参加した。その結果,語彙課題は学年によって成績に差が見られたが,その他の課題では学年差は見られなかった。また,音韻意識課題の誤りの多くは音素の代わりにモーラを単位として答えるものであった。語彙を基準変数とした階層的重回帰分析の結果,語彙は学年とスペル課題の成績で分散の50%以上が説明されることが確かめられた。また,スペル課題を基準変数とした階層的重回帰分析では,学年は有意な偏回帰係数が得られず,音韻意識の中では混成課題で有意な偏回帰係数が得られた。このことから語彙力を上げるためには,スペル課題で測定される英単語の語形成に関する知識が必要であり,語形成知識は,日本語の基本的な音韻の単位であるモーラではなく,音素を単位とする音韻意識を持つことによって身につくと考えられた。最後に,本研究の今後の英語教育への示唆について議論した。
【キーワード】英語学習,語彙,スペル,音韻意識,日本語話者

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25巻2号

◆ 渡部 雅之・高松みどり:空間的視点取得における仮想的身体移動の幼児期から成人期に至る変化

空間的視点取得は,他視点への仮想的な自己身体の移動と,それ以外に必要とされる認知的情報処理の2つの過程から構成される。多くの先行研究では,これらの過程を適切に分離できておらず,使用された実験課題によって互いに矛盾する結果が得られることも多かった。特に,空間的視点取得の本質と目される仮想的身体移動がどのように発達するのかについては,今日でも十分には解明されていない。本研究では,両過程を分離して捉えるために,反応時間と視点の移動距離との間に成立する一次関数関係を利用した手法を考案した。さらに,子ども達にも容易に理解できるように,この手法を組み込んだビデオゲーム形式の課題を作成した。3-4歳群,5歳群,6歳群,13歳群,21歳群の各群20名ずつ,合計100名が課題を行った。仮想的身体移動過程もしくはそれ以外の認知的情報処理過程のみを意味する各1種類の指標と,両過程を含む従来型の反応時間と正答数との,合計4種類の指標が分析に用いられた。その結果,仮想的身体移動に関わる能力が思春期以降に発達すること,それ以外の認知的情報処理に関わる能力は児童期後期から思春期頃に大きく伸張することが示された。これらを踏まえて,仮想的身体移動の発達研究の重要性を,身体性や実行機能の観点から考察した。
【キーワード】空間的視点取得,反応時間,身体性,児童期,情報処理

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◆ 春日 秀朗・宇都宮 博・サトウタツヤ:親の期待認知が大学生の自己抑制型行動特性及び生活満足感へ与える影響:期待に対する反応様式に注目して

本研究は,親から感じた期待が子どものどのような感情や行動を引き出し,それらが大学生の現在の自己抑制型行動特性と生活満足感にどのような影響を与えるのか検討することを目的とした。対象は大学生367名であった。質問紙調査により大学入学以前に親から感じた期待と期待に対して抱いた感情,行った行動を尋ね,自己抑制型行動特性及び生活満足感への影響を検討した。その結果,期待の認知形態により反応様式や生活満足感に差異が生じることが明らかになった。「人間性」・「進路」・「よい子期待」のいずれの期待も高く認知していた期待高群の大学生は,いずれの期待も感じなかった,もしくは人間性期待のみを感じていた大学生よりも負担感が高かったが,進路・よい子期待のみを感じていた大学生よりも期待に対して肯定的な反応をとっており,生活満足感も高かった。また自己抑制型行動特性から生活満足感への影響に関して,期待高群においては正の影響がみられた。これらのことから,期待が子どもに対しネガティブな影響を与えるのは,期待内容や程度とともに,子どもが期待をどのように認知しているのかが重要であることが明らかになった。期待高群において自己抑制型行動特性が生活満足感へ正の影響を与えていたことから,自らが望んで期待に応えた場合,自己抑制的な自身の性格を肯定的にとらえていることが示唆された。
【キーワード】親の期待,自己抑制型行動特性,生活満足感,期待に対する反応様式

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◆ 坂田 陽子・口ノ町康夫:対象物の形,模様,色特徴抽出能力の生涯発達的変化

本研究の目的は,対象物の特徴を抽出する能力が人の一生涯にわたってどのように変化するのかについて,幼児,大学生,高齢者を対象に同一の課題を用いて組織的に検討することであった。刺激として形,模様,色から成る幾何学図形を用い,2個もしくは8個を同時に実験参加者に呈示し,刺激間の共通した特徴を抽出させた。共通特徴は,形もしくは模様もしくは色のいずれか一つのみであった。その結果,形特徴に関しては,年齢による抽出成績差はなく,生涯を通して高水準で抽出が可能であった。一方,模様と色特徴に関しては,年齢による抽出成績に差が見られ,模様特徴に関しては加齢に伴うなだらかな逆U字曲線が,色特徴に関しては加齢に伴う,模様特徴よりも鋭角な逆U字曲線が見られた。これらの結果から,抽出能力は対象物の特徴によって異なる生涯発達的変化を示すことが分かった。その全体像から,形特徴抽出のような幼児期初期にはすでに獲得されている能力は高齢期後期まで残存し,模様や色特徴抽出のような幼児期後期に獲得した能力は高齢期初期に衰退するという現象が明らかとなり,この現象に対して,“first in, last outの原理”を適用できるのでないかと考察された。
【キーワード】生涯発達,特徴抽出,形,模様,色

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◆ 石川 茜恵:青年期における過去のとらえ方タイプから見た目標意識の特徴:時間的展望における過去・現在・未来の関連

本研究は,青年における過去のとらえ方のタイプの違いによって目標意識がどのように異なるのかを明らかにすることを目的とした。青年期を対象とした従来の時間的展望研究は青年における未来の側面を重視し,検討してきた。従来の研究の問題点として,研究対象が未来に偏重しており,過去に関する研究が少ないという点があった。現在において過去をどのようにとらえるかによって未来への意識が異なる点が示唆されており,この点の検討により青年の時間的展望をより理解できると考えられた。そこで本研究では,現在において過去をどのようにとらえているのかというタイプに基づいて目標意識の差異を検討した。大学生314名を対象に過去のとらえ方と目標意識から構成される質問紙調査を実施した。まず,過去のとらえ方尺度の5下位尺度を元にクラスタ分析を行った結果,異なる過去のとらえ方の特徴を持った「過去軽視群」「葛藤群」「統合群」「とらわれ群」の4タイプが得られた。次に,得られた4タイプを独立変数,目標意識を従属変数とした一要因分散分析を行った。その結果,現在において過去を過去として受容し,過去を現在や未来とつながるものとしてとらえていた統合群は,過去にとらわれていたり軽視していたり,過去が現在や未来につながっていないと推測された他の群よりも,将来への希望が高く,将来目標を持っていた。得られた結果が示す青年像と今後の課題が示された。
【キーワード】時間的展望,青年期,過去のとらえ方,目標意識

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◆ 枡田 恵:幼児期における感情の理解と表情表現の発達

これまで幼児の感情発達に関する研究は,感情語や表情図を用いて感情や表情の理解を測る課題が中心であり,表現の側面に焦点を当てたものは見られない。そこで本研究は,幼児期における感情発達について理解と表現の両側面から検討した。言語の発達途上にある幼児を対象とするために,言語的課題と非言語的課題の両方を使用し,これらの課題の関連を調べた。4歳から6歳の幼児44名を対象に,喜び・悲しみ・怒り・恐れ・驚きを引き起こすような物語を読み聞かせた後に,主人公の気持ちに感情をラベリングさせる課題を行い,感情の理解を言語的に調べた。その後で,主人公の表情を描く描画課題,ならびに主人公の表情を自ら表現する表情表現課題という二つの非言語課題を行った。その結果,ラベリング課題と描画課題,表情表現課題のどちらの間にも有意な相関は見られず,理解課題と表現課題は,異なる認知過程を要すると考えられた。また年中児においては,描画課題と表情表現課題の間に有意な相関が見られたことから,幼児期においては,描画で示された表情表現は言語的な理解能力ではなく,実際の表情表現能力と関連している可能性が示唆された。
【キーワード】感情理解,感情表現,感情ラベリング,描画,表情

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◆ 菊地 紫乃:幼児は物語を問題解決に活用できるか:類推の発達過程

本研究では,幼児が2つの物語を比較することで,その構造を抽出し,物語と類似した方法で問題解決をできるのか検討した。5歳前半児と5歳後半児を対象に問題解決の物語を提示し,その後,道具を使って解決する課題を解かせた。物語と課題は解決方法において類似しており,類推によって解くことができた。2つ物語を与える場合,教示によって物語の比較を促す群とそうでない群を設けた。実験の結果,5歳後半児は物語の比較を促されなくても,自発的に類推によって解決ができると示された。一方,5歳前半児は,自発的に類推によって解決することが難しく,大人によって物語の比較を促されることで類推による解決ができるようになると示された。年齢に伴って,物語と課題に共通する構造に気がつくようになることも明らかにされた。幼児においても類推による問題解決を行うことができ,5歳後半以降に自発的に構造に基づいて類推による解決ができるようになると言える。さらに,物語と課題の間の構造の類似性に気づくほど類推による解決が可能であった。構造の抽出ができるほど構造に基づく問題解決もできるという関連が示唆された。
【キーワード】類推,問題解決,構造,幼児,物語

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◆ 田垣 正晋:脊髄損傷者のライフストーリーから見る中途肢体障害者の障害の意味の長期的変化:両価的視点からの検討

本研究は,外傷性脊髄損傷者のライフストーリーから,中途肢体障害者の障害の意味の長期的変化を検討した。対象は,10年前の研究協力者の男性10名で,今回の調査時点で,受障から平均27.2年が経過,平均年齢49.4歳だった。10年間の生活の様子,障害に関する葛藤に関する半構造化面接を各々1回行った。対象毎に,逐語記録から抽出された平均約130個のコードについて,質的分析をした後,10名の結果を統合した結果,4つのカテゴリーを得た。1)「身体の管理」では,対象者は,移動の制約や体調の管理をしつつ,福祉サービスを使いこなしていた。2)「打ち込める活動」では,話し手は,仕事,社会活動,福祉活動,子育てを重視していた。3)「障害を活用して社会へ働きかける」では,話し手は,障害者施策の批評,交通機関の障害者への態度に対する抗議,闘病記の作成をしていた。4)「揺らぎと両価的意味づけ」の話し手は,3つのカテゴリーを文脈にして,仕事上の不利益,諸活動への消極さ,機能回復の希望をもつと同時に,子どもへの関与,障害者への支援などに,受障したからこそ可能になった人生上の意義を見いだそうとしていた。4)のうち,3名の話し手は,10年前と同様の両価的な意味づけを語った。以上の結果は,中途障害者の研究に両価的視点が有効であることを示した。
【キーワード】中途肢体障害,脊髄損傷,ライフストーリー,両価的意味

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◆ 山本 尚樹:運動発達研究の理論的基礎と課題:Gesell, McGraw, Thelen,三者の比較検討から

 本論文では,自己組織化現象に関する近年のシステム論の研究動向の観点から語られることの多かったEsther Thelenの発達理論を,George E. Coghillの発生研究を嚆矢とし,Arnold L. Gesell,Myrtle B. McGrawによって展開された古典的運動発達研究の延長戦上に位置づけ,再検討した。特に,Gesell,McGraw,Thelen,三者の発達研究・理論を比較検討し,類似点と相違点を明確にすることで,運動発達研究の基礎と今後の課題を明確にすることを目的とした。この検討により運動発達研究は,i.下位システムの相互作用から系全体の振る舞いの発達的変化を捉える,ii.発達的変化を引き起こす要因を時間軸上で変化する系の状態との関係から考察し特定する,という基本的視座をもつこと,さらにiii.系の固有の状態が発達に関与するという固有のダイナミクスの概念,iv.様々なスケールが入れ子化された時間の流れから発達を捉えるという多重時間スケールの概念,がThelenによって新たに加えられたことが確認された。最後に,このiii.,iv.の点について近年の研究動向を概観し,今後の課題を整理した。
【キーワード】運動発達,システム論,固有のダイナミクス,多重時間スケール

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25巻3号

◆ 大浦 賢治:子どもの条件文解釈における実用的推論スキーマ説の妥当性

 思考については,これまで多くの心理学的研究がなされてきたが,実用的推論スキーマ説(Cheng & Holyoak, 1985)は,その中でも有力な学説である。この考え方では,「許可」や「義務」のような日常の生活経験から引き起こされた抽象的な知識構造を用いることによって人は推論をなすとされている。Nakamichi(2004),中道(2006)は,幼稚園児を対象としながら条件文の解釈課題を用いて子どもに対する実用的推論スキーマ説の妥当性を検討した。そして,その結果は否定的なものであった。しかし,これらの調査では条件文によって示された許可的な規則に対して前提条件を課すことの理由が付与されていない。これとは対照的にCheng & Holyoak(1985)における条件文の4枚カード問題では,前提条件に関してそれがなぜ必要なのかという理由を付与した場合に大人の課題遂行が促進されている。本研究の目的は,こうした理由を付与した2つの経験的課題を用いながら許可的条件文の解釈に対する実用的推論スキーマ説の妥当性を発達的な観点から検討することである。その結果,2つの経験的課題の間には著しい成績の相違が見られ,子ども達の条件文解釈は許可スキーマよりも既存の知識や経験の影響を大きく受けていることが示された。また,Piagetの発達理論との整合性も見られた。以上のことから幼児期と児童期の子どもに対する実用的推論スキーマ説の妥当性は限定的であると考えられる。
【キーワード】認知発達,論理的思考,条件文解釈課題,実用的推論スキーマ,Piaget理論

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◆ 伊藤 大幸・中島 俊思・望月 直人・高柳 伸哉・田中 善大・松本かおり・大嶽さと子・原田 新・野田 航・辻井 正次: 肯定的・否定的養育行動尺度の開発:因子構造および構成概念妥当性の検証

 本研究では,既存の尺度の因子構造やメタ分析の知見に基づき,養育行動を構成する7因子(関与,肯定的応答性,見守り,意思の尊重,過干渉,非一貫性,厳しい叱責・体罰)を同定し,これらを包括的に評価しうる尺度の開発を試みた。小学1年生から中学3年生までの7,208名の大規模データに基づく確認的因子分析の結果,7因子のうち「関与」と「見守り」の2因子を統合した6因子構造が支持され,当初想定された養育行動の下位概念をおおむね独立に評価しうることが示唆された。また,これらの6因子が,子ども中心の養育行動である「肯定的養育」と親中心の養育行動である「否定的養育」の2つの二次因子によって規定されるという二次因子モデルは,専門家の分類に基づくモデルや二次因子を想定しない一次因子モデルに比べ,適合度と倹約性の観点で優れていることが示された。子どもの向社会的行動や内在化・外在化問題との関連を検討した結果,「肯定的養育」やその下位尺度は向社会的行動や外在化問題と,「否定的養育」やその下位尺度は内在化問題や外在化問題と相対的に強い相関を示すという,先行研究の知見と一致する結果が得られ,各上位尺度・下位尺度の構成概念妥当性が確認された。
【キーワード】養育行動,養育態度,因子構造,向社会的行動,問題行動

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◆ 柳岡 開地:プラニングおよび実行機能が後戻りを要するスクリプトの実行に及ぼす影響の発達的検討

 本研究では,スクリプト(Schank & Abelson, 1977)の実行中に起こる「いつもと異なる」状況において後戻りを用いて対処することに,プラニングと実行機能がどのような影響を与えるのか検討を行った。年少から年長の幼児94名を対象として,オリジナルに作成した人形課題,プラニングを測定するケーキ課題,抑制を測定する赤/青課題,シフティングを測定するDCCSと絵画語い発達検査を実施した。人形課題では,「幼稚園服を着るスクリプト」を幼児に実際に行ってもらった後,邪魔なアイテムを脱がして,後戻りをしなければならない状況を設定した。人形課題の成績により,最短で成功した最短群,余分に手順を要したが成功した非最短群,最後まで着せられなかった群を誤答群と分類したところ,年少児では誤答群が有意に多く,年長児では最短群が有意に多かった。さらに,実行機能の下位機能であるシフティングの成績が,後戻りを実施するか,しないかを予測し,プラニングの成績がスクリプトの変更をより少ない手順で実行するかどうかを予測することが示された。これらの結果より,「いつもと同じ」状況でスクリプトを実行することはほとんどの年少児で可能であるが,「いつもと異なる」状況において後戻りを用いてスクリプトを変更することには,シフティングとプラニングがそれぞれ異なる役割をもつことが示唆された。
【キーワード】スクリプト,実行機能,プラニング,後戻り,幼児

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◆ 近藤 龍彰:幼児は「他者の情動はわからない」ことがわかるのか?:両義的状況手がかり課題を用いて

 本研究の目的は,幼児は他者の情動を推測する際,「他者情動はわからない」ことを認識するのか,およびその認識の発達的変化を検討することであった。また,具体的に関わる人物(具体他者)と関わることのない架空の人物(一般他者)であれば,「わからない」認識に違いが見られるのかも検討した。年少児27名(平均月齢=49.81),年中児31名(平均月齢=61.45),年長児34名(平均月齢=73.74)を対象に,自分(自己),友達(具体他者),架空の人物(一般他者)の情動を,両義的状況手がかりから推測する課題を行った。その際,「わからない」ことを示す選択肢(「?」カード)を設定した。その結果,自己条件よりも他者条件で「わからない」反応が多いこと,年長児は年少児よりも「わからない」反応が多いこと,が示された。また,年長児は年中児よりも,一般他者条件において「なぜわからないのか」について言語的に理由づけできていた。このことから,「他者の情動がわからない」ということは,5,6歳ごろから認識され出すこと,具体他者と一般他者では「わからない」認識に質的な違いがあることが示唆された。
【キーワード】幼児,情動推測,「わからない」反応,自己/他者

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◆ 田渕 恵・三浦 麻子:高齢者の利他的行動としての「語り」に与える世代間相互作用の影響:実験場面を用いた検討

 本研究の目的は,高齢者が自分自身の経験とそこから得た知恵や知識を,次世代に伝授するという利他的行動場面において,聴き手の反応が高齢者の「語り」にどのような影響を与えるかについて,実験的に検討することであった。中高年男性34名(60歳-82歳)(平均年齢68.38±3.53歳)を対象に,知識や知恵を伝授するという「語り」場面を設定し,それに対する聴き手の反応(ポジティブ反応・非ポジティブ反応)および聴き手の世代(実験参加者と同世代の高齢者・若者世代)を厳密に操作した。実験で得られた「語り」行動の内容分析を行ったところ,分析対象となる発話から,3つの大カテゴリ(教訓・回想・期待)とそれらに属する7つの小カテゴリが抽出された。各小カテゴリについての発話人数の比率が,各実験条件下でどのように異なるかを検討した結果,聴き手が同世代の高齢者である場合よりも若者世代である場合の方が「教訓」についての発話が認められた人数比率が高く,さらに,聴き手が若者世代である場合のみ,聴き手がポジティブに反応した場合に,次世代に対する利他性をより含んだ「失敗経験からの教訓」について発話した人数比率がより高かった。
【キーワード】高齢者,利他的行動,語り,世代間相互作用,実験室実験

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◆ 島 義弘:親の養育態度の認知は社会的適応にどのように反映されるのか:内的作業モデルの媒介効果

 親の養育態度は子どもの社会的適応に影響を与えている。これまでに,親の養育態度の認知が子どものアタッチメントに影響を与えること,及び子どものアタッチメントが自身の社会的適応に影響を与えることが示されていることから,本研究では親の養育態度と子どもの社会的適応の関連が内的作業モデルによって媒介されているというモデルを設定し,大学生191名を対象とした質問紙調査を行った。その結果,親のケアを低く評価しているほど内的作業モデルの“回避”が高く,親を過保護であると認知しているほど内的作業モデルの“不安”が高かった。さらに,内的作業モデルの“不安”が高いほど個人的適応の指標である自尊感情が低く,対人的適応の指標である友人関係における“傷つけられることの回避”が高かった。また,“回避”が高いほど自尊感情が低く,友人関係における“自己閉鎖”と“傷つけられることの回避”が高かった。以上のことから,親の養育態度をネガティブに評価していることが不安定な内的作業モデルにつながり,内的作業モデルが不安定であることが社会的適応を困難にするというモデルが成立することが示された。
【キーワード】高齢者,利他的行動,語り,世代間相互作用,実験室実験

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◆ 鈴木 豪:多様な考え方の検討方法の違いが小学生の数学的問題解決に及ぼす影響:共通点・相違点を考える場合と最も良い考え方を選ぶ場合の比較

 本研究は,多様な考え方の共通点・相違点を考えることと,最も良い考え方を選ぶことが,小学生のデータの代表値を用いた判断を伴う課題解決に及ぼす影響の差異を検証した。本実験では,小学5年生(N=46)を対象とし面接調査を行った。実験参加者は,介入課題において多様な考え方の共通点・相違点を考える共通相違群と,最も良い考え方を選ぶ最良選択群に割り当てられ,事後課題に取り組んだ。事後課題は主に,(A)平均が妥当でないときに平均以外の代表値で判断できるか,(B)多様な代表値を用いて判断できるかを問う課題であった。対数線形モデルのあてはめによる分析の結果,課題(A)正答者では,課題(B)で自発的に複数の代表値を用いた児童が共通相違群で多く最良選択群で少なかった。また,課題(B)で自発的に複数の代表値を用いた児童の回答内容を検討したところ,平均に対する最大(小)値の影響を述べるなど,平均が常に正しいとは限らないことに言及した児童が,共通相違群で多い傾向にあった。
【キーワード】比較検討,複数解法,代表値についての理解,数学的問題解決,小学5年生

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◆ 小川 翔大:青年期における友人の慰め方が受け手の感情に与える影響:励ましや共感の言葉かけと何もせずそっと離れる行動の比較

 本研究は中学生,高校生,大学生を対象に,親しい友人から受ける慰め方の違いによる,慰めの受け手に生じる感情の違いを検討した。慰め方の種類は,“励まし”,“共感”,“何もせずそっと離れる”の3つであった。調査対象者には,人間関係のトラブルで親しい友人から慰められる話を読んでもらい,それぞれの慰め方で慰められた時の感情を評定してもらった。その結果,励ましや共感は,何もせずそっと離れる場合よりも,受け手の感謝が高く,反発が低かった。この結果から,慰めをする人が親しい友人の場合,あえて何もせずにそっとしておくより,励ましや共感の言葉かけをした方が,受け手にとって効果的な慰めになることが示唆された。また,慰め方の種類ごとで,学校段階による慰められた時の感情の違いのパターンが異なっていた。励ましと共感を受けた場合では,大学生は中高生よりも感謝が低く,反発が高かった。何もせずそっと離れた場合では,高校生は中学生と大学生よりも感謝が低く,反発が高かった。各学校段階によって生じる慰められた時の感情の違いは,友人に対する期待や欲求の発達的な変化によって生じていると考察された。
【キーワード】慰め,サポート,共感,向社会的行動,青年の発達

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◆ 富田 昌平・野山佳那美:幼児期における怖いもの見たさの心理の発達:怖いカード選択課題による検討

 人間はしばしば怖いものを「怖い」と知りながらもあえて見ようとする。本研究では,怖いもの見たさの心理を,虚構と現実の区別を認識したうえで,安全な距離から怖いものと向き合い,「現実ではない」「でも,もしかしたら」と現実性の揺らぎを楽しむ遊びとして定義し,幼児期の発達においては,虚構と現実の区別の認識が獲得されるに従って,怖いものをあえて見ようとする行動をよく行うようになるのではないかとの仮説に基づき実験を行った。具体的には,保育園年少児20名,年中児33名,年長児39名に対して,動物またはお化けが描かれた「怖い」カードと「怖くない」カードを伏せた状態で提示し,どちらか1枚だけ見ることができるとしたら,どちらを見たいかを尋ねる課題(怖いカード選択課題)を行った。また,見かけ/本当の区別課題,想像/現実の区別課題も併せて行い,関連性について検討した。研究の結果,怖くないカードよりも怖いカードを見ようとする行動は加齢に伴い増加し,そうした行動は特に年長児において想像/現実の区別の認識と関連があることが示された。また,男児は女児よりも怖いものを好む傾向があることが示された。
【キーワード】怖いもの,恐怖,想像,虚構と現実の区別,幼児

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◆ 加藤 弘美・加藤 義信・竹内 謙彰:2〜3歳児は自己とモノのビデオ映像をどのように理解しているか?

 本研究では,ビデオ映像を用いて,マークテストとリーチングテストの達成の発達的関係を調べることによって,自己とモノの映像の性質に関する理解に2〜3歳児では違いがあるか否かを明らかにすることを目的とする。実験では2歳6カ月から3歳7カ月の幼児43名を対象に,まず,マークテストを実施し,その後,前方リーチングテスト(隠されたモノが子どもの前方に出現する)と,後方リーチングテスト(モノが子どもの背後に出現する)を実施した。さらに,前方と後方の両方に同時につい立てを置き,どちらか一方だけにモノを置いた場合,子どもがモノの映像だけを見て正しい位置にリーチングするかどうかを見た。その結果,(1)後方リーチングテストはマークテストより通過が困難であること,(2)後方リーチングテストは前方リーチングテストより困難であること,(3)つい立てが前後両方に現れる課題では,モノが後方に置かれる場合には,実際の場所と反対を探索する「お手つき反応」がより多く出現することが示された。この傾向は,マークテストを通過できる子どもにも同じく認められた。以上から,自己映像を対象とするマークテストに通過できた子どもでも,モノの映像の十分な理解が,とりわけ映像空間内と実空間内でのモノの位置の対応関係の理解が,必ずしも可能となっているわけではないことが示唆された。
【キーワード】マークテスト,リーチングテスト,2〜3歳児,ビデオ映像の性質理解

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◆ 古見 文一・小山内秀和・大場有希子・辻 えりか:他児の知識状態や自己の役割が幼児の発話の変化に及ぼす影響:絵本の読み聞かせ場面を用いて

 年中児,年長児39名(平均年齢5歳4ヶ月,男児18名,女児21名)を対象に誤信念課題,PVT-R,ストーリーテリング課題を行った。本研究で作成されたストーリーテリング課題は,参加児が絵本の読み聞かせの動画を視聴した後に,その内容について他の参加児に説明を行うという内容であった。この時,説明を聞かせる相手が,一緒に動画を見た相手である“共同体験あり条件”と一緒に動画を見ていない相手である“共同体験なし条件”の2つの条件に分け,全ての参加児が両条件とも行った。また,事前に参加児を半数ずつ“演技群”と“統制群”に割り付け,演技群には説明の際に“先生のように説明する”ように教示した。統制群にはそのような教示は行わなかった。その結果,条件間,群間で総発話量には差がなかったが,共同体験なし条件の方が,共同体験あり条件よりも物語の登場人物の名前を説明に組み込んでいた。また,演技群の方が統制群よりも同様に物語の登場人物の名前を説明に組み込んでいた。これらの結果から,幼児は他児の知識状態,および自己の役割によって発話の質を変化させることが示唆された。
【キーワード】幼児,発話の発達,心の理論,共同体験,自己役割の理解

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◆ 小松 孝至・紺野智衣里:小学校3年生の日記における子どもの自己のあらわれ:記号論的アプローチによる探索的考察

 本研究は,記号的媒介(semiotic mediation)の考え方から展開されたpresentational self(Komatsu, 2010, 2012)の視点から,子どもの自己をその内面にある実体ではなく,子どもの表現から観察者が感知するものとして捉え,小学校3年生が家庭で書き,それに担任教諭がコメントする形で10カ月間続けられた日記(26名・632篇)から抽出した例を用いて,子どもの自己の読み取りの可能性を論じた。まず,理論的な基礎として,表現における意味を対立的な複合体として捉え得ること,それが時間の中で変容すること,その意味構築過程から読み手に書き手(語り手)の固有の自己が意識されるとする考え方を論じた。次に,予備的な分析を行い,日記の内容や他者への言及の頻度を数量的に示した。その上で,4名の日記(計12篇)から,この年齢の特徴とされる,経験した出来事を順序に沿って書く時系列的表現を基礎にしつつ,そこから,生起した出来事の細部,自身の内面,未来や過去などへの展開がみられることが,書かれた対象との関係における個々の子どもの固有性を読み手に意識させることを例示し,その過程で子どもの周囲の他者への言及が重要性をもつ可能性を論じた。
【キーワード】児童,日記,自己,記号論的アプローチ,Presentational Self

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25巻4号

◆ 長谷川真里:信念の多様性についての子どもの理解:相対主義,寛容性,心の理論からの検討

 本研究は,信念の多様性についての子どもの理解を探るために,相対主義の理解,異論への寛容性,心の理論の3つの関連を調べた。研究1では,幼児,小1生,小2生,小3生,合計253名が実験に参加した。実験では,まず,「道徳」,「事実」,「曖昧な事実」,「好み」の4領域の意見について本人の考えを確認した。その後,本人の考えと同じ子ども(A),逆の考えの子ども(B)の2種を提示し,「どちらの考えが正しいか,両方の考えが正しいか(相対主義の理解)」,「A,Bそれぞれが実験参加児に遊ぼうと言ったらどう思うか(寛容性)」を尋ねた。幼児については誤信念課題もあわせて実施した。その結果,幼児においても課題によっては相対主義の理解がみられた。また,どの年齢群も,領域を考慮して判断していたが,寛容性判断において年齢とともに道徳領域が分化していった。「好み」に対する相対主義の理解がみられなかったのは,課題として提示されたアイスクリームのおいしさが,子どもにとって絶対的なものなのかもしれない。そこで,研究2では,子どもにとってあまり魅力的ではない食べ物(野菜)を材料にした補足実験を行った。その結果,「野菜」課題において相対主義理解の割合が増加した。また,心の理論と相対主義の理解に関係がみられた。最後に,本研究の結果をもとに,文化差について議論した。
【キーワード】信念の理解,相対主義,寛容性,心の理論

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◆ 首藤 敏元・二宮 克美:子どもの道徳的発達の文脈としての母親の「個人の自律性」概念

 本研究の目的は,母親の個人の自律性の概念と子どもの個人領域概念の獲得との関係を明らかにすることである。日本人の既婚女性34名と彼女らの子ども34名(平均年齢5歳10カ月)が面接に協力した。34名の女性は4種類の夫婦葛藤場面を提示され,それぞれについて夫と妻のどちらが最終決定をすべきかを答え,その理由を述べた。その後,子どもが親の指示に反発する場面を提示され,そこでのしつけの仕方について回答した。参加者の子ども34名は,母親と同じ子どもの反発場面が提示され,主人公の行動の悪さ判断とその理由が求められた。結果として,参加者は自律性を夫側に帰属させる傾向のあること,夫婦を互いに独立した関係とみなす参加者と階層的関係にあるとみなす参加者とでは子どもの反抗場面でのかかわり方に違いがあること,さらに子どもの道徳的判断にも違いが認められることが示された。母親の自律性の概念は家庭における子どもの道徳的発達の社会的文脈に反映し,子どもの個人領域の発達に影響することが示唆された。
【キーワード】道徳的発達,社会的領域理論,夫婦関係概念,自律性,しつけ

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◆ 小野田亮介:説得対象者の差異が校則に関する児童の意見文産出に与える影響:社会的領域理論における領域調整の観点から

 社会的領域理論では,思考の基盤となる概念を「道徳」,「慣習」,「個人」の3領域に区別する。そして,実際の問題に対して人は3領域のいずれか,あるいは複数領域に基づく「領域調整」によって判断や行為を行うと考える。そこで本研究では,説得を目的とした意見文産出において,児童が説得対象者に合わせていかに領域調整を行うかについて検討した。まず,予備実験を実施し,本実験で用いる校則に関する意見文課題の適性を評価し,分析枠組みとなる理由づけカテゴリを作成した。本実験では,小学校4年生の1学級30名を対象に意見文課題を実施した。説得対象者として,校則に関する知識量の多い「親友」と,知識量の少ない「転入生」を設定し,(1)説得対象者に合わせた児童の領域調整の特徴,(2)領域調整に対する児童の困難感,の2点について検討した。その結果,転入生に対しては慣習領域の理由が多く産出され,親友に対しては個人領域の理由が多く産出されていた。また,説得に困難さを感じる児童ほど,領域調整によって質の異なる理由産出を行う傾向が認められた。以上より,児童は説得対象者に応じた領域調整の必要性を認識し,説得対象者に合わせた理由産出をしていることが明らかになった。ただし,領域調整の必要性を認識することで,かえって多様な理由を産出できない児童がいることも示された。
【キーワード】社会的領域理論,領域調整,意見文,読み手意識,中学年児童

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◆ 鈴木亜由美:幼児の道徳的文脈における誤信念の理解

 本研究は,幼児において道徳的にネガティブな結果をもたらした加害者の信念を推測する際には誤りが生じやすいのかどうかを検討したものである。3-4歳児,4-5歳児,5-6歳児,合計71名に対して,行為者の同一の誤信念が道徳的にネガティブ,ポジティブ,ニュートラルな結果をもたらす3条件での誤信念の理解を問い,標準誤信念課題との正答率の差を検討した。加えて行為についての道徳的判断と理由づけを求めた。その結果,ニュートラル条件とネガティブ条件においては,標準誤信念課題よりも信念質問の正答率が低くなることがわかった。また,行為の背後にある誤信念を正しく理解している幼児であっても,非意図的行為がもたらす結果がネガティブかポジティブかに影響された道徳的判断を行うことが示された。一方で判断の根拠においては,誤信念を理解しない子どもに比べて,行為の意図性に言及した理由づけが多く見られることがわかった。これらの結果より,誤信念課題に道徳的文脈が加わることにより,加害者バイアスと状況の複雑さという2つの要因が影響し,幼児にとって誤信念の推測が難しくなることが示唆された。
【キーワード】幼児,誤信念,道徳的判断,意図性,心の理論

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◆ 一柳 智紀:道徳授業を通した児童の道徳性の発達過程:社会文化的アプローチに基づくワークシートの記述の縦断的検討

 本研究の目的は,社会文化的アプローチに基づき,道徳授業を通した児童の道徳性の発達過程を明らかにすることである。そこで,道徳授業において扱う資料について児童が自分の判断や気持ちを表現したワークシートの記述を道徳性を媒介する言語と捉え,その変化を小学1年生の学級において縦断的に検討した。結果,当該学級で用いられた主人公や自分の気持ちを可視化するための「心の表情カード」を記述する際,当初児童の多くは教師が提示した見本の表情をそのまま使用していたが,徐々に見本をアレンジしたりオリジナルの表情を使用する児童が増加していったことが示された。そして,後者の児童の多くは主人公や自分といった1つの視点あるいは複数の人物の視点から,異なる複数の考えを記述していた。ここから,当該学級における道徳授業を通した児童の道徳性の発達は,自分なりの表情を用いながら,様々な視点から異なる複数の考えを,その間での葛藤を伴い表現するという言語を,当該学級における「ヴァナキュラーな道徳的言語」として専有していく過程と捉えることができた。ただし,こうした道徳性の発達は一方向的に進むのではなく,授業で扱う課題の内容や「心の表情カード」の変化により,行き来しながら進んでいることが示された。
【キーワード】社会文化的アプローチ,ヴァナキュラーな道徳的言語,媒介,専有,足場はずし

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◆ 村上 達也・西村多久磨・櫻井 茂男:小中学生における共感性と向社会的行動および攻撃行動の関連:子ども用認知・感情共感性尺度の信頼性・妥当性の検討

 本研究の目的は他者のネガティブな感情とポジティブな感情の双方に着目した“子ども用認知・感情共感性尺度”の信頼性と妥当性を検討すること,共感性の性差および学年差を検討すること,そして,共感性と向社会的行動および攻撃行動の関連を検討することであった。小学4年生から6年生546名,中学生1年生から3年生646名に対して調査を行った。因子分析の結果,子ども用認知・感情共感性尺度は6因子構造であった。それらの因子は,共感性の認知的側面である,“他者感情への敏感性(敏感性)”と“視点取得”の2因子と,共感性の感情的側面である,“他者のポジティブな感情の共有(ポジ共有)”,“他者のポジティブな感情への好感(ポジ好感)”,“他者のネガティブな感情の共有(ネガ共有)”,“他者のネガティブな感情への同情(ネガ同情)”の4因子であった。重回帰分析の結果,小中学生で敏感性とネガ同情が向社会的行動を促進していることが明らかになった。また,小学生高学年ではポジ好感が身体的攻撃と関係性攻撃を抑制することが明らかになった一方で,中学生では視点取得が身体的攻撃と関係性攻撃を抑制することが明らかになった。
【キーワード】共感性,向社会的行動,攻撃行動,小学生,中学生

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◆ 登張 真稲:共感の神経イメージング研究から分かること

 最近,共感の神経基盤を明らかにするための神経イメージング研究が盛んに行われている。本研究ではそのうちのいくつかを紹介し,それらの研究から共感に関連してどのようなことが分かったのかを,従来の共感の概念や理論と対照させながら検討した。最近の研究によると,身体的痛みや社会的痛み等への共感は,自分自身の痛み等の処理に関与する領域(島前部と帯状皮質前部等)と,アクション理解に関与する領域(下前頭回弁蓋部等),メンタライジング(心的状態の推測)に関与する領域(前頭前野背内側部,側頭-頭頂接合部,楔前部等)を活性化させた。また,それらの脳部位は共感の重要要素である他者との感情共有と他者の感情理解において重要な役割を果たすことが示唆された。さらに,共感は自動的に起こるとは限らず,状況要因や観察者の特徴によっては調整される場合もあることが明らかになった。向社会的行動の神経基盤を検討する神経科学的研究も見られるようになっており,この分野における新興のテーマの一つとなっている。
【キーワード】共感,神経イメージング研究,神経基盤,展望,痛みへの共感

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◆ 渡辺 弥生:学校予防教育に必要な「道徳性・向社会的行動」の育成

 発達心理学研究において,道徳性および向社会的行動研究がどのように展開してきたかを概観し,今日学校予防教育が学校に導入しうるに至った経緯を考察した。子どもたちが社会的関係を築く能力や感情的なコンピテンスをどのように獲得するか,またいかに道徳的な価値を学びとるようになるのかは多くの研究の関心事であった。その後,研究と実践の橋がけに関心が抱かれ,道徳教育,ソーシャル・スキル・トレーニング,さらには社会性と感情の学習等のアプローチが,いじめを含むあらゆる学校危機を予防するために学校に導入されつつある。近年,こうした異なるアプローチがしだいに統合されつつあるが,これは,社会的文脈の一つとして学校全体が視野に入れられ,子どもたちが望ましい役割を適切に果たしていくために,認知,感情,行動のスキルが必要だというコンセンサスが得られてきたからであろう。今後,道徳性や向社会的行動の育成を意図した学校予防教育のさらなる発展に発達心理学研究の一層の活用が期待される。
【キーワード】道徳性,向社会的行動,感情コンピテンス,社会性と感情の学習,学校予防教育

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◆ 青木多寿子:品格教育とは何か:心理学を中心とした理論と実践の紹介

 本研究の目的は,米国で実施されている品格教育について,その考え方や具体例を示し,品格教育の理論と実際を心理学の用語を含めて紹介することである。そこでまず,品格教育の概要を理解するため,品格教育が目指す姿を紹介し,その中でCharacterという言葉,品格教育が重視する徳について解説した。また全米で品格教育を推進するCEPの11の原理を紹介し,品格教育が目指す教育について解説した。次に,筆者が視察した3つのセンターとその特徴を記述する中で,品格教育が実際にどのように理解され,実践されているのかを具体的に示した。最後に,ポジティブ心理学や教育心理学との関係について紹介し,日本の道徳教育との相違点を述べて,実践としての品格教育の特徴を心理学の用語を用いてまとめた。
【キーワード】品格教育,習慣,道徳,ポジティブ心理学,包括的な学校改革

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◆ 鹿子木康弘:発達早期における向社会性:その性質と変容

 我々は生まれながらにして向社会的なのだろうか? より大胆に言えば,我々は生まれながらにして善なのだろうか? 近年の乳幼児研究によって,発達初期におけるヒトの向社会性が明らかにされつつある。しかしながら,発達科学からのヒトの向社会性の本質についての議論は少ない。そこで,本稿では,実証的な発達研究をもとに,向社会性の性質やその変容を明らかにすることを目的とした。まず,進化生物学の理論を考察することにより,ヒトにおいて向社会性がいかにして形成・維持されるのかを議論する。次に,乳幼児期から就学前児を対象にした向社会性に関連する一連の研究を概観し,ヒトの向社会性は,発達早期において生来的な性質を持つが,発達とともにその性質が変容することを示した。更にその変容を促す要因(社会化,認知能力の発達,暴力的な場面やメディアなどへの接触経験)を考察することにより,発達早期における向社会性がいかに変容するかを描写した。最後に,向社会性の本質の更なる理解のために,今後の方向性として,その生起メカニズムや変容の解明についての試論を行った。
【キーワード】向社会性,援助行動,共感,同情,認知発達

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◆ 河本 愛子:中学・高校における学校行事体験の発達的意義:大学生の回顧的意味づけに着目して

 学校行事は授業と同様,すべての者が経験する教育活動であるにもかかわらず,どのような発達的意義を有するのかについては検討されてこなかった。そこで本研究では,中学・高校における学校行事体験に対する大学生の回顧的意味づけに着目して検討を行った。大学生670名を対象に質問紙調査を行い,中学・高校の学校行事体験を想起してもらった結果,6つの意味づけが見出された。それらは「集団への肯定的感情」,「他者意識の高まり」,「集団活動に対する消耗感」,「問題解決への積極性」,「他者統率の熟達」,「学校活動への更なる傾倒」であった。これらの意味づけにつながる参加の仕方を検討した結果,傾倒のみがすべての意味づけに関連していた。次に,傾倒に関連する活動の質を検討した結果,目標志向的に行動することが最も大きな関連を示していた。最後に,個人のパーソナリティ特性の調整効果を検討した結果,調和性の程度によって,活動の質と傾倒との関連の大きさが異なることが示された。以上より,中学・高校における学校行事体験がライフイベントとして個人の発達上,重要な意味を有することが示唆された。今後は,縦断研究を用いて,個人特性の違いを考慮した上で活動の発達的機能と影響過程を検討する必要があるだろう。
【キーワード】学校行事,意味づけ,青年期,特別活動,構造化された活動

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◆ 西中 華子:心理学的観点および学校教育的観点から検討した小学生の居場所感:小学生の居場所感の構造と学年差および性差の検討

 本研究では小学生の居場所感の構造を心理学的観点および学校教育的観点から検討し,居場所づくりの実践研究への示唆を得ること,および性差・学年差の検討を目的とした。まず心理学における先行研究を概観し,居場所感の要素として「被受容感」,「安心感」および「本来感」を仮定した。加えて教育分野における居場所の提言や論考を参考に,「充実感」および「自己存在感」を仮定した。これらに関する計35項目を準備し,小学4〜6年生の児童,男女合計931名を対象として調査を実施した。因子分析の結果,「被受容感」「充実感」「自己存在感」「安心感」の4因子が確認され,教育分野の実践においていわれている「充実感」や「自己存在感」が小学生の居場所感の一要素を表すことが明らかにされた。一方で青年期の居場所感において重要視されている「本来感」が小学生の段階では重視されない可能性が示唆された。これらのことより,小学生を対象とした居場所づくりでは,「被受容感」「充実感」「自己存在感」「安心感」を促進するような介入方法の必要性が示唆され,青年期とは異なる介入の検討が必要であると考えられた。また小学生の居場所感において,「被受容感」および「充実感」は5年生および6年生よりも4年生のほうが,「自己存在感」は5年生よりも4年生のほうが高いことが明らかにされた。さらに男子よりも女子のほうが「被受容感」および「安心感」が高いことが明らかになった。
【キーワード】居場所感,小学生,学校教育的視点,居場所欠乏感

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◆ 村山 恭朗・伊藤 大幸・高柳 伸哉・松本かおり・田中 善大・野田  航・望月 直人・中島 俊思・辻井 正次:小学高学年・中学生用反応スタイル尺度の開発

 反応スタイルは抑うつの維持もしくは悪化を引き起こす要因である。本研究は小学4年生から中学3年生の5,217名を対象とし小学高学年・中学生用反応スタイル尺度を開発することを目的とした。既存の反応スタイル尺度を参考に,「反すう」,「問題解決」,「思考逃避」,「気晴らし」の4因子を想定した原案16項目を作成した。探索的因子分析の結果,想定された通り小学高学年・中学生用反応スタイル尺度は4因子(「反すう」,「問題解決」,「思考逃避」,「気晴らし」)で構成されることが示された。さらに各因子間に認められた相関は先行研究の知見に沿うものであった。また信頼性に関して,各下位尺度のα係数は概ね基準以上の値であることが確認された。外在基準とした抑うつおよび攻撃性との相関を検討したところ,「反すう」は正の相関,「問題解決」および「気晴らし」は負の相関を示した。これらの結果は先行研究に沿うものであり,小学高学年・中学生用反応スタイル尺度の構成概念妥当性が確認された。
【キーワード】反応スタイル,反すう,抑うつ,学童期,思春期

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