発達心理学研究第15巻(2004年)   


15巻1号

道徳的違反と慣習的違反における罪悪感と恥の理解の分化過程(高井弘弥:島根大学)

道徳的・慣習的違反のあとに,謝罪や補償などの向社会的行動をとるか,それとも逃避などの非社会的行動をとるか,の推測に関して,罪悪感と恥の感情を媒介にして検討した。幼児ではどんな場合であっても違反に対しては罪悪感に媒介された向社会的行動をとると推測していたが,成人では慣習的違反の場合や道徳的違反でも軽微な場合など状況によっては恥の感情に媒介された非社会的行動をとることもあり得ると考え,その移行過程が小学生の時期に見られた。さらに,違反行為のあとにとる行動の評価に関しても,慣習的違反行為の場合,逃避などの恥の感情に媒介された非社会的行動をとっても成人での評価はそれほど低くはならないが,小学生では謝罪などの向社会的行動をとった場合に比べると低くなることが示された。また,本研究では,罪悪感や恥を,それらのことばの概念や用法が異なる文化間であっても,機能的側面に注目することで,ことばの違いに影響されずに,社会的認知に関しての比較文化的研究を進めるための方法論についても想起するものである。
【キー・ワード】道徳的違反,慣習的違反,罪悪感と恥の理解,子どもの感情帰属

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ナラティヴから捉える子育て期女性の意味づけ:生涯発達の視点から(徳田治子:京都大学)

本研究は,近年,多様で複雑な経験であることが指摘される女性にとっての子育ての意味を,母親となった女性自身の生き方や人生との関連で明らかにするものである。具体的には,第1子が0歳から3歳で,家庭で子育て中心の生活を送っている女性11名に,詳細な面接調査を行い,ナラティヴアプローチの枠組みを用いて,日々の生活や個々の人生の展望を語るなかで行われる子育ての意味づけの特徴を捉えた。その結果,「子育ての意味づけ」の類型化とそれに対応する「ライフパースペクティブの語り」の特徴から5つの意味づけパターンを明らかにした。5つの意味づけは各々「自明で肯定的なものとしての子育て」,「成長課題としての子育て」,「小休止としての現在」,「個人的成長としての現在」,「模索される子育ての意味づけ」として特徴づけられた。各意味づけに対応する「ライフパースペクティブの語り」とは,意味づけがなされる語りの文脈を捉えたものであり,各々の意味づけは,母親である自分,育児中心の生活,個としての生き方をめぐる葛藤や困難等の問題の有無とその所在を中心に構成されていた。最後に,これらの結果を受けて,5つの意味づけパターンを「受け入れ方略としての意味づけ」の枠組みから整理し,子育て期女性の意味づけのモデルとして提示した。
【キー・ワード】子育て,母親,ナラティヴ,意味づけ,生涯発達

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小学5年生における2つの動体の走行時間と走行距離の比較判断とその学習(日下部典子:早稲田大学・谷村 亮:大同工業大学・Lan Woei-Chen:台北市立師範学院・松田文子:福山大学)

2つの動体の走行時間を比較するために必要な知識「時間=終了時刻−開始時刻」とその論理的操作を,小学5年生(67名)に,文章題を用いて学習させた。学習の前後に,2台の自動車がスクリーン上を同じ方向に動く画面を見せた。児童はどちらの車が先に出発し,先に止まり,そして長い時間走行したかを判断した。その結果,この知識を用いて2つの動体の走行時間を比較することは,学習後でさえ大変難しいことが明らかとなった。その原因は,このような運動課題では「時間=距離/速度」の知識の方が活性化しやすいにもかかわらず,児童は「時間=到着時刻−出発時刻」と「時間=距離/速度」の2種の知識の関係を理解していないために,「時間=到着時刻−出発時刻」の知識を適切に使用出来ないことにある,と示唆された。また,別の小学5年生(70名)には,2つの動体の走行距離に関して,時間と同様の実験を行った。「距離=到着地点−出発地点」の知識を用いて2つの動体の距離を比較することは,時間の比較より容易であった。距離についての2つの知識の関係づけの方が,時間の場合と比較して若干進んでいるようであった。
【キー・ワード】時間判断,距離判断,小学5年生,学習,知識構造

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幼児におけるウサギの飼育経験とその心的機能の理解(藤崎亜由子:奈良女子大学/現ATRネットワーク情報学研究所)

幼児がウサギという飼育動物に対してどのように関わるのかを調べるために,実際のやりとり場面の観察を行った。幼稚園の年長児60人,年中児53人,年少児20人を対象に,ウサギ小屋に入室したときの発話および行動をビデオカメラで撮影して分析を行った。併せて,幼児がウサギの「心」についてどのように理解しているのかを調べるために個別でのインタビュー調査を行った。その結果,飼育活動中に最も多く生起した行動は,動物を「見る」と「餌を与える」というものであった。年齢ごとに比較すると,年少児はウサギを追いかけたり,餌を投げたりする行動が多く,年長児では掃除やウサギに対するコミュニケーション活動が多くなっていた。インタビュー調査の結果からは,ウサギの生態に添う文脈で生起する知覚,感情,欲求,信念については,多くの子どもたちがその存在を認めることが示された。その一方で,ウサギの心的機能に対する擬人化の高い反応は加齢に伴い減少していた。同じ年長児で比較した場合,ウサギ小屋への入室日数が多い子どもたちの方が生物学的知識を豊富に有するにも関わらず,ウサギの心的機能に対する擬人化が増え,さらにウサギに対する言葉かけも多くなっていた。以上の結果は,飼育動物に対する社会的な理解の発達という側面から議論を行った。
【キー・ワード】幼児,飼育動物,心の理解,擬人化,生物概念

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中年期の女性における子の巣立ちとアイデンティティ(清水紀子:金城学院大学)

本研究は,41〜60歳の女性1041人を対象にアイデンティティ・ステイタスを質問紙で測り,子の巣立ちと母親のアイデンティティとの関連を横断的に検討した。その結果,母親が子の巣立ちを主観的に認識することと関連して,母親のアイデンティティは発達に向かうことが確認された。特に,第一子の巣立ちをそろそろだと感じ始める時期がその発達の起点であると示唆され,その段階において,気軽に相談できる友人はアイデンティティの拡散を抑制する働きがあった。また,母親として積極・肯定的な態度を強く持つことはアイデンティティ混乱と負の関係にあり,子の巣立ちを認めていても密着・献身的な態度を持つことは逆に正の関係にあった。職業との関連では,フルタイム勤務の人ではそれ以外の人よりも子の巣立ちに伴って達成方向のアイデンティティ・ステイタスへと分布が偏ったのに対し,専業主婦では一人目の巣立ちが完了した段階でアイデンティティ拡散に偏った点が特徴的であった。この点に関して,フルタイムで勤務する人は,親役割と仕事役割が重複することによる葛藤が子の巣立ちによって解消されていくために,アイデンティティの転機が他の就業形態よりも積極的に表れたのではないかという可能性が論じられた。
【キー・ワード】アイデンティティ,子の巣立ち,中年期,女性

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青年前期・中期における死に対する態度の変化(丹下智香子:名古屋大学)

本研究は,青年前期・中期における死に対する態度の特徴について記述することを目的とした。同じ学校の中学生・高校生を対象に,5年間にわたり毎年1回,死に対する態度尺度を含む質問紙調査を実施した。5回全体で899人(延べ1742人)から回答が得られた。死に対する態度尺度は(1)死に対する恐怖,(2)生を全うさせる意志,(3)人生に対して死が持つ意味,(4)死の軽視,(5)死後の生活の存在への信念,(6)身体と精神の死,という6下位尺度から構成されていた。学年に伴う変化を検討した結果,特に中学の期間において学年が上がるにつれ,死に対する恐怖,生を全うさせる意志,死後の生活の存在への信念,および身体のみの生への執着は低下していた。逆に,死を軽視する見方は学年が上がるにつれて否定されなくなっていった。また,人生に対して死が持つ意味の認識については,学年との関連が示されなかった。死に対する態度の構造は青年前期・中期においてはあまり変化しないようであった。死別体験の有無も死に対する態度に有意な影響を示さなかった。
【キー・ワード】死に対する態度,生死観,青年前期・中期

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「心の理論」成立までの三項関係の発達に関する理論的考察:自閉症の諸症状と関連して(熊谷高幸:福井大学)

Baron-Cohen(1995)は,「心の理論」メカニズム(ToMM)の形成に先行するものとして共有注意メカニズム(SAM)の形成を位置づける発達段階モデルを提案している。しかし,健常児における,SAMの形成年齢(1歳前後)と初期のToMMの形成年齢(4歳頃)との間には3年間という開きがある。また,両者には共通性と共に,大きな構造的な差異があると考えられるため,何らかの中間的な段階が存在する可能性がある。本研究では,SAMとToMMを三項関係という共通の枠組みで捉え,その上で,空間・時間・人称関係の側面について,両者の構造的な差異を分析した。その結果,2つの中間的な段階が存在することが推論され,健常児と自閉症児の様々な発達現象と関連づけながら,「心の理論」に至るまでの4つの発達段階のモデルを構築した。すなわち,三項関係の基本型である段階T,<いま・ここ>の内外や直前・直後の活動表象ができる段階U,過去や未来の出来事を展望する仲で,<わたし>や<あなた>の,より客観的な活動表象ができる段階V,そして,仮定事態からの視点を持つことによって<彼/彼女>のような3人称的人物の主体的立場を理解できるようになる段階Wが設定された。
【キー・ワード】心の理論,三項関係,時間・空間・人称関係,発達段階モデル,自閉症

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中年期夫婦のコミュニケーション・パターン:夫婦の経済生活及び結婚観との関連(平山順子:郡山女子大学・柏木惠子:文京学院大学)

本稿は,核家族世帯の中年期夫婦277組を対象に,夫婦間コミュニケーション態度をもとに夫婦のコミュニケーション・パターンの特徴を明らかにし,その様態が夫・妻それぞれの心理状態とどう関係しているか,またコミュニケーション・パターンの差をもたらしている要因を夫婦の経済生活及び結婚観との関連で検討した。主な結果は次のとおりである。(1)対象夫婦は,双方がポジティブな態度でコミュニケーションをしている「共感親和群」(36.5%),平均的で中立的なコミュニケーションをしている「平均中立群」(35.7%),双方がネガティブな態度でコミュニケーションしている「威圧回避群」(27.8%)の3群に分類された。(2)共感親和群及び威圧回避群では,妻は夫に比べて夫婦関係満足度が低く,離婚思念度が高いことが明らかにされた。特に威圧回避群では夫と妻との得点差が他の2群に比べて大きかった。(3)夫婦の経済生活はコミュニケーション・パターンの違いと関連しており,片働き夫婦では平均中立群が多いこと,一方,妻の年収100万円以上の共働き夫婦では共感親和群が多いことが見出された。(4)夫婦のコミュニケーション・パターンと結婚観との関連を検討した結果,共感親和群の夫は平均中立群・威圧回避群の夫に比べて,〈相思相愛〉及び〈夫の妻への理解・支持〉が顕著に高いことが明らかにされた。
【キー・ワード】夫婦のコミュニケーション,中年期,夫婦関係,共働き,結婚観

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15巻2号

小学5年生が時間の比較判断に用いる知識と方略:5年算数「速さ」単元の授業前と授業後の比較(谷村 亮:大同工業大学・松田文子:福山大学)

36名の小学校5年生を対象に,算数「速さ」単元の授業前と授業後に,時間の長さを比較させる2種類の課題を実施した。2種の課題のうち1つは,CRTディスプレイ上を同方向に移動する2つの動体の移動時間の長さを比較する課題(運動課題)であり,もう1つは,問題文中の2人の登場人物の移動時間の長さを比較する課題(文章題)であった。文章題においては,2人の出発時刻・到着時刻・距離・速さの4変数のうち3変数の情報を提示し時間を比較させる課題,および,出発時刻・到着時刻・距離・速さの4変数のすべての情報を提示し,時間を比較させる課題があった。その結果,(a)運動課題においては,距離を判断の基準として解答したと推測される者が,授業前,授業後ともに多かった。(b)文章題においては,余分な情報として到着時刻や距離の情報が存在すると,課題の正答率が5割前後になることが示された。(c)2種の課題の両方に,授業の効果が若干みられた。以上の結果から,5年生が「速さ」の授業前後に持っている時間の知識構造と判断に使用する方略について考察した。
【キー・ワード】時間判断,運動,算数の文章題,知識,小学5年生

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なぜ子どもは「隠れる」のか?:幼稚園における自由遊びの参与観察(苅田知則:東京大学先端科学技術研究センター)

本研究では,幼児が自由遊びの時間に行う「隠れる」行為の動機を,参与観察を通して研究者自身が再体験的に理解し,当該事象における幼児の内的様相を記述的に再構成すること,および再構成によって得られた例示を,公共的に再体験・相互理解可能な仮説として提示することを目的とした。本調査の研究協力者は,幼稚園児(年中児21名,年長児19名)であり,自由遊びの参与観察から,65事例の「隠れる」行為が観察された。それらの事例を,KJ法を用いて仮説生成的に構造化する二つの分析を試みた。分析1では,KJ法を用いて行為の目的と手段に着目した分析を行ったところ,65事例を13の1次カテゴリー,さらにそれらを包括する四つの2次カテゴリーに分類し,最終的に「演劇的行為」と「対人的行為」という二つの3次カテゴリーに集約した。分析2は,幼児が「隠れる」場所と行為の関係性に着目した分析であり,「隠れる」場面では,子ども(主体)と空間(場)および遊びの成員外の第三者(他者)の3要素が織りなす特定の「三者構造」が構成されており,「囲う」「潜る・入る」「隔てる」という3種類がモデルとして浮上した。最終的に,二つのKJ法による分析から得られた結果を,Burke (1952 / 1982)の劇学的視点を導入して統合し,子どもが「隠れる」2つの動機を提示した。
【キー・ワード】隠れる,幼稚園児,参与観察,KJ法, 劇学的動機論

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慢性疾患患者におけるモーニング・ワークのプロセス:段階モデル・慢性的悲哀(chronic sorrow)への適合性についての検討(今尾真弓:愛知教育大学教育学部)

本研究においては慢性疾患患者におけるモーニング・ワークのプロセスに焦点を当て,2つのモデル,すなわち,段階モデルおよび慢性的悲哀(chronic sorrow)への適合性について検討を行った。青年期から成人期の19歳から34歳の14名の慢性腎臓疾患患者を対象に半構造化面接を実施し,発病後の心理過程に焦点づけたライフ・ストーリーを聴取し,2つのモデルへの適合性を検討した。結果,いずれのモデルについても,慢性疾患患者のモーニング・ワークのプロセスへの全面的な適合性は示されず,今後は2つのモデルを取り入れ,慢性疾患患者により適合する代替モデルを作成していく必要があると思われた。また,代替モデル作成にあたって考慮すべき要因として,次の2点が示唆された。すなわち@慢性疾患患者のモーニング・ワークのプロセスは,従来よりも長いタイム・スパンの中で捉える必要があり,「受容・終結」という方向性を持ちながら,段階的に移行していくと考えられる,Aプロセスの最終段階である病気の「受容・終結」のあり方については,文化的要因も考慮の上,より幅を持たせながら考えて行く必要があると考えられる。
【キー・ワード】慢性疾患,モーニング・ワーク,青年期,成人期,エイジング

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向社会性についての認知はいかに行動に影響を与えるか:価値観・効力感の観点から(伊藤順子:宮城教育大学)

本研究の目的は,向社会性についての認知を価値観と効力感から捉え,これらが,向社会的行動の出現過程(気づき・動機づけ・向社会的行動)に与える影響を明らかにすることであった。7歳児157名,9歳児185名を調査の対象とした。調査は,向社会性についての認知評定(児童用),気づき・動機づけ評定(児童用),向社会的行動評定(教師用)を行った。向社会性についての認知に関しては,各評定項目(10項目)に対して,どのくらい向社会的にふるまった方がよいか(価値観),どのくらい向社会的にふるまうことができるか(効力感)の2つの質問を行った。気づき・動機づけ評定では,5つの向社会的場面を設定し,被験者の友だちはどのように感じているのか(気づき),被験者はその時どうするか,なぜそうするのか(動機づけ)を質問した。向社会的行動評定は,向社会性についての認知評定項目に対応する10項目であった。パス解析の結果,9歳児では,価値観・効力感の両面が動機づけに影響を与えていることが示されたが,7歳児では,価値観・効力感から動機づけへの影響はみられなかった。これらの結果から,向社会的行動の出現過程においては,価値観と効力感の関与の仕方が年齢によって異なっていることが示唆される。
【キー・ワード】向社会的行動,向社会性についての認知,価値観,効力感,動機づけ

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病院内学級における教育実践に関するエスノグラフィック・リサーチ:実践の“つなぎ”機能の発見(谷口明子:東京大学大学院教育学研究科)

本研究の目的は,ひとつの病院内学級における教育実践のありようを検討することから,教育実践が入院児童の生活世界の中でどのような機能を有するのかを発見することである。混沌とした実践を理解する解釈枠組みを仮説的に提示することで,日常的には見すごされがちな実践の“意味づけ”を行った。入院児童・生徒への教育の必要性はつとに叫ばれながらも,関連先行研究はごくわずかしかなく,本研究は未踏の分野における探索的研究と位置づけられる。研究目的および研究分野の特性を考慮し,フィールドワークによる多角的データ収集を行い,質的研究法の手順に則った分析を行うことを選択した。結果として,教師の実践が<関係調整/参加援助/心理的ケア/環境設定/学習援助/疾患理解援助/しつけ>の7つのカテゴリーに分類され,さらに踏み込んだ解釈から病院内学級の教育実践が,孤立し,エネルギーを失っている児童の生活世界のシステム間を<つなぐ>という援助機能を有していることを見出した。この<つなぎ援助>という仮説的な実践の見方は,病院内学級教育における実践的有効性ばかりではなく,従来は「入院中でも勉強を教える」という役割のみが注目されていた病院内学級の実践がよりシステマティックな援助機能をもつことを明らかにした。
【キー・ワード】 病院内学級,教育実践,フィールドワーク,生態システム,つなぎ援助

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母子相互作用場面における2歳児の情動調整プロセスの個人差(金丸智美:お茶の水女子大学人間文化研究科・無藤 隆:お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター)

本研究の第1の目的は,母子葛藤場面における2歳児の情動調整プロセスを,子どもの不快情動変化として捉え,その個人差を検証することである。第2,第3の目的は,この個人差と,情動調整行動及び母子関係性,すなわち「情動の利用可能性」(emotional availability:以下EA)の葛藤場面前後の変化との関連性を検討することである。さらに第4の目的として,情動調整プロセスのタイプごとの母子相互作用の特徴を記述し,2歳児の情動調整の特徴を明らかにする。2歳前半の子どもとその母親41組を対象に,実験的観察を行った。その結果,不快情動変化タイプは,「継続型」・「沈静型」・「非表出型」に分類された。「継続型」の子どもは,不快情動の原因を除去する積極的な働きかけを行った。「非表出型」の子どもは,自ら気紛らわしや他の活動を行い,母親は子どもの自発性や能動性に寄り添っていた。「沈静型」の母親は子どもの不快情動を沈静するための積極的な働きかけを行い,sensitivityとstructuringが葛藤場面で高くなった。以上より,自律的な調整や,原因を除去しようとする能動性が可能になり始めるが,不快情動が沈静するには,母親の助けを必要とするという,自律性と他律性が混在する2歳児の情動調整の特徴が明らかになった。
【キー・ワード】情動調整,2歳児,母子相互作用,情動の利用可能性,個人差

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女子青年がもつ現在の対人的枠組みと生育史に記述された母親及び友人との関係の質との関連(山岸明子:順天堂大学医療看護学部)

過去の対人関係に関する再構成が現在の対人的枠組みの影響を受けるのかを明らかにするために,その両者の関連を97名の女子短大生を被調査者として検討した。現在の対人的な枠組みは内的作業モデルが安定しているか―不安定かの観点から質問紙によってとらえ,過去の対人関係のとらえ方は,本人が自由に記述した生育史から母親及び友人との関係の質を愛着の安定性・不安定性の観点から査定したものを用いた。主な結果は次の通り:1)現在の安定した枠組みと回避的な枠組みに関しては,自らの生育の過程についての語りが関連していたが,不安な枠組みでは関連が見られなかった。2)過去の葛藤関係の記述は,現在の枠組みとの関連が弱かった。3)母親―友人との関係の認知は共通の傾向をもつ部分と異なる部分が見られた。4)現在の対人的枠組みと自らの生育の過程についての語りの関連は,現在の枠組みの安定性が低い群の方がより強く,特に回避群の語りには問題があるものが多かった。以上の結果について愛着理論や自伝的記憶の研究と関連させて,考察がなされた。
【キー・ワード】対人的枠組み, 生育史, 安定愛着, 母親との関係, 友人との関係

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幼児における自分自身の表情に対する理解の発達的変化(菊池哲平:九州大学人間環境学府)

幼児は自分自身が表出した顔の表情についてどのぐらい正確に理解しているのか,という問題を明らかにするため,幼児自身が表出した顔の表情写真をその幼児本人に呈示する自己表情認知課題を行い,パフォーマンスの発達的変化を検討した。3歳から6歳までの幼児58名を対象に,線画やイラストなどによる表情図や他者の表情写真による表情刺激と,あらかじめ言語指示によって撮影した自分自身の表情写真を呈示した。その結果,年少の幼児でも表情図や他者写真の表情に対する基本的な意味理解と識別は可能であったが,自分自身の表情については必ずしも正確には理解しておらず,こうしたコンピテンスは3歳以後ゆっくりと徐々に獲得されていくことが示された。また自分自身の表情については「怒っている」表情が最も理解しやすいことが明らかとなり,表情図や他者写真による表情認知課題とは異なることが示唆された。また自分自身の表情の理解には線画による表情図の理解と最も相関が高く,このことから自己表情の理解は表情の表象的イメージの獲得と関連があることが示唆された。
【キー・ワード】表情,情動的コンピテンス,自己/他者,幼児,情動発達

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大学生はいかに力のプリコンセプションを変容させるか(高垣マユミ:鎌倉女子大学児童学部子ども心理学科)

本研究の目的は,大学生の力のプリコンセプションを変容させる教授ストラテジーを検討し,プリコンセプションを科学的概念へ変容していくプロセスを明らかにすることである。実験セッションでは,事前テストにより抽出された力のプリコンセプションをもつ82名に,「つり合い教授(易課題)」と「投げ上げ教授(難課題)」の2種の教授が与えられた。事後テストの結果,両課題において,“現象の原因となる力”,“動きをもたらす力”,“仕事をする力”のプリコンセプションの変容が認められた。そこで,教授的働きかけを与えられて個人内にどのような心的操作がもたらされたのかをプロトコルから詳細に分析した結果,以下のことが明らかになった。1)易課題が正答できるようになった者の多くは,つり合い教授の認知的葛藤生起情報により,「当惑」がひきおこされた。一方,難課題が正答できるようになった者の多くは,投げ上げ教授の認知的葛藤生起情報により,「混乱」がひきおこされた。2)難課題の認知的葛藤を解消するためには,a)プリコンセプションでは説明不可能な具体的事例を解釈するための枠組みとして,科学的概念が受容される方略だけでは十分な効果はなく,b)プリコンセプションと科学的概念が整合的に結びつけられる方略が有効となることが示唆された。3)易課題が正答できるようになった者の多くは,認知的葛藤解消情報により「記憶の再生・転移」を感じ取ることで,また難課題が正答できるようになった者の多くは,認知的葛藤解消情報により「驚き」を感じ取ることで,知的好奇心が活性化された。
【キー・ワード】プリコンセプション,教授ストラテジー,概念変容のプロセス,力の概念

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幼児における想像の現実性判断と空想/現実の区別認識との関連(富田昌平:山口芸術短期大学保育学科)

本研究の目的は,空想と現実に対する区別認識の違いによって,箱の中に想像した生き物に対する幼児の現実性判断はどのように異なるのかについて検討することであった。幼稚園年中児48名に対して空想/現実の区別課題と空箱課題を行った。まず,空想/現実の区別課題の成績をもとに,幼児を統合型,混同型,否定型,肯定型の4つに分類し,次に,空箱課題における行動や主張を類型ごとに比較した。統合型は空想と現実を適切に区別できた者,混同型は空想と現実を正反対に区別した者,否定型は空想と現実の両方を否定した者,肯定型は空想と現実の両方を肯定した者である。主な結果は次の通りである。第1に,否定型の幼児は他の類型の幼児よりも,空箱課題において箱への探索行動を示すことが多く,加えて,彼らの多くは後の質問において「空っぽだ」と主張することが多かった。第2に,肯定型の幼児は,箱への探索行動をほとんど示さなかったが,その一方で「いるかもしれない」と主張することが他の類型の幼児よりも多かった。第3に,統合型の幼児は他の類型の幼児よりも,願いごとや魔法によって想像が現実になる可能性について判断するときに,単純に“可能か不可能か”で答えるのではなく,条件つきで回答したり,判断を保留したりすることが多かった。以上の結果は,幼児における主張面と行動面での心の揺らぎやすさという点から議論された。
【キー・ワード】想像,現実性判断,空想/現実の区別,個人差,幼児

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15巻3号

母子間の"離抱"に関する横断的研究:母子関係を捉える新概念の提唱とその探索的検討(西條剛央:早稲田大学人間科学研究科,日本学術振興会特別研究員)

本研究では,母親が自分の子どもを次第に抱かなくなって行く発達的過程を「離抱」と名付け検討し,その概観を明らかにすることを目的とした。1-13カ月の乳幼児を持つ母親達を対象とした質問紙調査を行ない,抱き時間や乳幼児の発達に関する情報を集めた。その結果,未頸定段階に6時間以上あった抱き時間は,歩行段階には2.5時間へと減少していくことが明らかとなった。さらに,乳児の発達的側面から,離抱に影響を与える要因を検討した。その結果,(1)姿勢運動発達,(2)身長,(3)体重,(4)授乳形態,(5)子の体を動かす行動,(6)子の抱っこから降りたがる行動が影響を与えていることが示された。それを踏まえ,親性投資,システム論的観点等から離抱に対する考察がなされた。最後に,今後,観察研究,縦断研究,ダイナミックシステムズアプローチ,比較文化的アプローチといった観点から検討する必要性が示唆された。
【キー・ワード】母子,抱き,離抱,身体,アフォーダンス

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幼児期における他者の意図理解と社会的問題解決能力の発達:「心の理論」との関連から(鈴木亜由美:京都大学大学院・子安増生:京都大学大学院・安 寧:京都大学大学院)

本研究では,幼児の社会的問題解決の能力を「心の理論」の発達との関連から検討した。3歳児21名,4歳児20名,5歳児20名を対象に,仮想的な対人葛藤場面において,相手の意図(故意・偶然)を理解しているか,また葛藤を解決するためにどのような方法を用いるかをたずねた。同時に,誤った信念課題によって「心の理論」の発達を調べた。その結果,相手の意図の理解は誤った信念課題の正誤と関連していることが示された。また,「心の理論」を獲得した子どもは,相手の意図(故意・偶然)に応じて異なる葛藤解決方法を選択するであろうという仮説に反して,そのような区別は見られず,相手の意図に関わらず,攻撃的方法の選択が減少し,自己抑制的方法の選択が増加することが示された。これらの結果より,対人葛藤場面における相手の意図の理解は,「心の理論」と密接に関連しているが,意図の違いによって葛藤解決方法に区別が見られるというわけではなく,むしろ状況に関わらず一貫した解決方法を選択するようになる,ということが示された。
【キー・ワード】社会的問題解決,心の理論,意図,幼児期

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日・韓高校生における無気力傾向に関する比較研究:進路発達との関連に注目して(李 相蘭:東京大学大学院教育学研究科)

本研究の目的は,無気力傾向と進学動機の不明確性,進路未決定および自我同一性との因果関係を通じて,日本と韓国の高校生における無気力傾向に見られる違いを比較・考察することにある。日本の東京都内の高校生(男子164名,女子146名),韓国のソウルおよび京畿道内の高校生(男子124名,女子128名)を対象に,質問紙法による調査を行なった。無気力傾向尺度は2因子を抽出し,アンヘドニアおよび未来へ対する自己不確実感を表す'自己不全感'と対人関係における消極的または受動的な態度を表す'消極・受動'となった。本研究の分析は,国と性によって4つの母集団に分けて行なったが,国より性による違いがより明瞭となっていた。男子高校生の自己不全感は進路が決定していないために引き起こされることが推測された。しかし,女子高校生の方は,進路を決定しているためにかえって自己不全感が高くなる可能性が推測された。一方,消極・受動は,自我同一性の未確立問題によって影響されており,特に男子高校生の方が高かった。男女とも進学動機が不明確であることによって進路を決めるのが困難となる可能性が推測され,進路決定について感じる困難は,続いて自己不全感に影響を与えていた。国による差において,自己不全感が自我同一性によって直接的に規定される程度は,日本の男子高校生においてほとんど意味を持たないのに比べて,韓国の男子高校生の方はより高い係数で規定されていた。一方,女子高校生の場合,消極および受動的な性向が自我同一性の未確立によって影響される程度において,日本の女子高校生の方が韓国の女子高校生に比べて明瞭に高かった。また,日本の女子高校生の自己不全感は,韓国の女子高校生に比べて進路未決定の問題を介する傾向が示された。本研究において,日・韓男女高校生とも自己不全感に進学動機不明確性が影響していることが確認されたことは,いままでの知見を一歩進めたものとなる。
【キー・ワード】無気力傾向,進学動機不明確性,進路未決定,自我同一性

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日本人留学生の異文化適応の様相:滞在国の対人スキル,民族意識,セルフコントロールに着目して(植松晃子:お茶の水女子大学大学院人間文化研究科)

本研究では,日本人留学生の異文化適応の様相を明らかにすることを目的とし,1)滞在国の対人スキル獲得,2)民族的側面(民族同一性・他民族志向),3)セルフコントロール(調整型・改良型セルフコントロール)といった要因と,異文化での充実感・満足感を示す異文化適応感との関連を中心に検討した。アメリカに滞在する143名の日本人留学生を対象に質問紙調査を実施した。異文化適応感について4因子抽出された(「滞在国の言語・文化」,「心身の健康」,「学生生活」,「ホスト親和」)。また因果モデルに基づくパス解析の結果,民族同一性と他民族志向からは,滞在国の対人スキル獲得と異文化適応感因子に有意なパスが見られ,民族意識の持ち方によって異なる適応のタイプが示唆された。さらに調整型セルフコントロールからも滞在国の対人スキル獲得や異文化適応感因子への有意なパスが見られ,情動制御や気のそらしといったコントロールが特に有効であることが明らかになった。また滞在国の対人スキル獲得は全ての異文化適応感因子に関与しており,異文化適応において非常に重要な要因であることが明らかになった。
【キー・ワード】異文化適応,日本人留学生,滞在国の対人スキル獲得,民族同一性,セルフコントロール

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達成目標が援助要請と情報探索に及ぼす影響の発達:多母集団の同時分析を用いて(上淵 寿:東京学芸大学教育学部・沓澤 糸:株式会社ベネッセコーポレーション・無藤 隆:お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター)

学習時における児童・生徒の援助要請および情報探索に対する達成目標の影響が,学年によってどのように発達するのかを,小学校4年生から中学1年生を対象に,調査した。その際に,学年ごとのモデルの潜在変数の同質性を保証するために,多母集団の同時分析を行った。その結果,学習目標が援助要請の利得感に正の影響を与えること,遂行目標が援助要請の利得感に正の影響をもたらすこと,援助者に対する援助性認知が,援助要請の利得感に正の影響を与えることが示された。また,援助要請の利得感の方が,援助要請の損失感よりも,実際の援助要請行動に影響していた。最後に,情報探索行動には,どの学年においても,学習目標が正の影響を与え,遂行目標は有意な影響を与えなかった。
【キー・ワード】達成目標,援助要請,情報探索,多母集団の同時分析,共分散構造分析

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自閉症幼児における三項関係の成立過程の分析:シャボン玉遊び場面でのやりとり(辻 あゆみ:総合福祉センター弘済学園・高山佳子:横浜国立大学教育人間科学部)

幼児期の自閉症児とその母親とのシャボン玉遊び場面を観察し,対象児が「自分―もの―母親」との間で三項関係を成立させる過程を分析した。シャボン玉遊びの中で,対象児は,三項関係を成立させ,母親の吹く行動を真似るに至るまでに,物ならびに母親に対して39項目の行動を表出させた。初回のやりとりにおいて,対象児は物に働きかけることが多く,母親に対して働きかけることは少なかった。また,対象児が母親に対して働きかけた場合においても,母親を見ることはなかった。最終回のやりとりにおいて,対象児は,母親を見ながら母親に働きかけることが多くなり,物と母親との間で視線を移動させるようになった。対象児は,シャボン玉遊びを介したやりとりを通して,物を操作している母親を理解するようになり,その結果,母親の行動を真似ることが可能になったと考えられた。他者と相互主体的なやりとりを展開することが困難な幼児期の自閉症児に対して,他者を意識できるような遊びを展開できるように支援することが,必要であると考えられた。
【キー・ワード】自閉症,やりとり,三項関係,模倣,他者理解

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高等教育段階の授業における教授者のストレス過程:ストレッサー・対処行動の様相(神藤貴昭:京都大学高等教育研究開発推進センター・尾崎仁美:京都ノートルダム女子大学人間文化学部)

近年,大学における教育的側面が検討されるようになってきた。本研究の目的は,大学授業における教授者のストレスと対処行動の過程を明らかにすることであった。研究1では大学授業における教授者の認知するストレッサーの種類を調査した。研究2では,3名の大学教員によっておこなわれた実際の7つの授業をもとにして,教員への面接や授業VTRの分析をとおして,教授者と授業中のストレッサーとの相互作用を詳細に記述した。主な結果は以下のようであった。@全体的には学生の反応に関するストレッサーが多いこと,A放置という対処が多く見られたこと,B教授者の経験年数が少ないほど,学生の否定的反応に関するストレッサーを多く認知していること,C対処行動にもかなり個人差があるということ,Dあるストレッサーを解決しようとすると,別のストレッサーが生起する可能性があること,の5点である。これらの結果はファカルティ・ディベロップメントの観点から議論された。
【キー・ワード】大学教員,授業,ストレッサー,対処行動

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質問紙調査による「私」への「なぜ」という問い−自我体験−の検討(天谷祐子:名古屋大学大学院教育発達科学研究科)

「私はなぜ私なのか」「私はなぜ他の時代ではなく,この特定の時代に生まれたのか」といった,私そのものへの問い−自我体験−が,どれくらいの割合で,いつ頃見られ,どのような情動や行動を伴うのか,そして自我体験の内容について検討することを目的に,中学生から大学生881名を対象に,自由記述を伴った質問紙調査を行った。その結果,379名(43%)から自我体験が報告され,初発については,小学校後半を中心にややバラツキが見られることが示された。また,必ずしもきっかけがなくても生起し,他者への開示はあまり見られないことが示された。そして,自身の自我体験に意味を見出している人は少数派であったが,より年上の世代の方が,意味を見出している人が多い結果となった。本研究の結果,自我体験は一般に多くの人に共有されている問いであることが示された一方で,全ての人に見られる現象ではないことが示された。また子ども世代であっても,「私」について抽象的に考えることができる可能性が示唆された。
【キー・ワード】「私」,「なぜ」という問い,自我体験

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1歳児は教えることができるか:他者の問題解決困難場面における積極的教示行為の生起(赤木和重:神戸大学大学院総合人間科学研究科,日本学術振興会特別研究員)

本研究は社会的知能のひとつのあらわれである教示行為に注目して行われた。特に,(1)1歳児における積極的教示行為(active teaching)の有無,(2)積極的教示行為の生起と自己鏡像認知(mirror self-recognition)の成立との関連,を明らかにすることを目的として研究を行った。1歳0カ月〜1歳11カ月の幼児43名を対象に,「他者による問題解決困難場面提示課題」とよばれる独自の課題およびGallup(1970)の開発したマーク課題を実施した。「他者による問題解決困難場面提示課題」とは,実験者が,新版K式発達検査で用いられるはめ板と円板を素材として,円板を四角孔にいれようと対象児の目前で試行錯誤するという課題である。その結果,(1)1歳8カ月以降の幼児のおよそ60%が積極的教示行為を生起させた,(2)積極的教示行為の生起と自己鏡像認知の成立との間に関連がみられた,という2点が明らかになった。以上の結果から,積極的教示行為および自己鏡像認知の成立には1歳半ころの表象能力に基づく自他の分化が基盤にあることが示唆された。
【キー・ワード】1歳児,積極的教示行為,自己鏡像認知,自他分化

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対話を伴うビデオ映像を幼児はよく憶えるか?(坂田陽子:愛知淑徳大学コミュニケーション学部・川合伸幸:名古屋大学大学院情報科学研究科)

4・6歳児を対象に,ビデオ映像と子どもとの間で対話を通して双方向コミュニケーションが取れるようにした場合,幼児の記憶が促進されるかを検討した。2群を設けた;対話あり群;実験者が隠れてマイクを通して被験児と対話をしながらビデオを呈示,対話なし群;セリフの入ったビデオを見せ対話なし。ビデオのストーリーは,登場人物が子どもにとって未知の食品を10項目購入していき,途中で6種のエピソードが組み込まれているというものであった。対話あり群には,ビデオ視聴中に,購入した項目の名前を言うよう要求したり,エピソードについてコメントをさせたりした。一方,対話なし群にはビデオを視聴させるのみで,何も要求しなかった。ビデオ視聴後,被験児は,エピソード記憶,購入項目選択および再認の3課題を試行した。その結果,対話あり群は,対話なし群と比較して,エピソード記憶成績が良かった。以上の結果から,子どもとビデオ映像との対話を通したインターラクション状況下でのビデオ視聴は,幼児のエピソード記憶を促進させる効果があることがわかった。
【キー・ワード】ビデオ映像,対話,双方向コミュニケーション,幼児,記憶

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