発達心理学研究第23巻(2012年)
23巻1号
◆ 畠山 美穂・畠山 寛:関係性攻撃幼児の共感性と道徳的判断,社会的情報処理過程の発達研究
本研究の目的は,関係性攻撃を行う幼児の共感性と道徳的判断及び社会的情報処理について検討することである。調査協力者は,幼稚園年長児(男児16名,女児18名),年中児(男児18名,女児24名),年少児(男児13名,女児12名)の計101名とその担任保育者4名であった。幼児の関係性攻撃の程度を測定するために,幼児の社会的行動教師評定尺度(Preshool Social Behavior Scale-Teacher Form)の関係性攻撃に関する5項目を利用した。尺度測定は保育者評定によって実施し,関係性攻撃上位30%の高群(n=35)と,下位30%の低群(n=40)を抽出した。Lemerise & Arsenio(2000)及びArsenio &Lemerise(2004)の社会的情報処理モデルを参考に,幼児の社会的情報処理過程及び道徳的判断,共感性について測定するための質問を考案して実施した。関係性攻撃高群と低群の共感性及び道徳的判断,社会的情報処理過程を検討した結果,関係性攻撃を行う幼児は関係性攻撃を行わない幼児よりも,共感性の中でも相手の感情を推測する得点が高く,状況によらず攻撃は悪いと判断していることが明らかとなった。 それゆえ,この結果は,関係性攻撃を多く行う幼児の社会的能力が高いことを示唆するものである。
【キーワード】関係性攻撃,共感性,道徳的判断,社会的情報処理過程,幼児
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◆ 加藤真由子・大西 賢治・金澤 忠博・日野林俊彦・南 徹弘:2歳児による泣いている幼児への向社会的な反応:対人評価機能との関連性に注目して
幼児同士の関わりにおいて,ある幼児が泣いているときに,他の幼児が示す向社会的な反応は,後の共感性を予測するという点で重要視されている。これまで,泣いている他児に対して向社会的に関わりやすい幼児の特徴は検討されてきた。一方,泣いている他児の特徴や泣いている他児との関係性が,関わりかける幼児の行動に影響するかについて検討した研究は少ない。本研究では,集団保育場面において,泣いている他児の泣きやすさ,攻撃性,被攻撃性,孤立性といった特徴や泣いている他児との親密性によって,関わりかける幼児の行動に違いが見られるのかを検討する。泣いている幼児に対する向社会的な反応が生起し始め,泣きがよく生起するという理由から,2歳児を観察対象とした。室内遊び場面の行動観察を行い,泣いている他児に対する幼児の反応を記録した。一般化線形混合モデルを用いて分析した結果,泣きやすく,攻撃性の高い他児が泣いていると幼児は向社会的な反応を示すことが少なく,あまり泣かず,攻撃性の低い他児が泣いていると幼児は向社会的な反応を示しやすかった。また,泣いている他児との親密性が高いと,幼児は向社会的な反応を示しやすかった。2 歳児はこれまでに受けた親和的な相互交渉や居合わせた泣きの頻度,普段の攻撃性から相手の特徴を識別し,対人評価を行い,その対人評価が相手が泣いている状況での関わり方に影響を与えていると考えられる。
【キーワード】向社会的な反応,泣きやすさ,攻撃性,親密性,2歳児
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◆ 池田 幸代・大川 一郎:保育士・幼稚園教諭のストレッサーが職務に対する精神状態に及ぼす影響:保育者の職務や職場環境に対する認識を媒介変数として
本研究の目的は,保育者のストレス評価の特徴に注目し,保育者のストレッサーは職場や職務に対する認識が媒介することによって変化が生じ,その結果職務に対する精神状態に影響をおよぼすという構造仮説モデルを,保育士と幼稚園教諭という職種別に検討することである。具体的には保育士119名と幼稚園教諭114名を対象に質問紙調査を実施し,パス解析を行った。その結果,保育者の認識の媒介効果は部分的に証明された。保育者の認識のうち保育者効力感を規定するポジティブな効果がみられた媒介変数は,保育士・幼稚園教諭ともに「専門職としての誇り」「保護者・子どもとの信頼関係」であった。「職場の共通意識」は,保育士の場合はバーンアウトを低減させる効果が示されたが,幼稚園教諭の場合は媒介変数としての効果は何もみられなかった。よって,保育職一般にとっては職務における個人的なやりがいや満足感といった認識はストレス軽減に関与し,職場内のまとまりや共通意識は,保育士にとってはストレス軽減要因となるが,幼稚園教諭にとってはストレス評価に関与しないという現状が明らかになり,保育職のうち職種の違いによって独自のストレッサーおよびストレス関連要因の存在が示唆された。今後,これらの要因を調整することにより,保育者の精神的健康が守られることが期待され,ひいては子どもの健全な発達援助の一助になると考えられる。
【キーワード】保育者,ストレッサー,認識,精神状態,媒介効果
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◆ 島 義弘・上嶋 菜摘・小林 邦江・小原 倫子:母子相互作用において母親が使用する情報:内的作業モデルの影響
母親は母子相互作用において,子どもへの関わりを決定する際に多様な情報を使用していることが示されている。本研究では,母親が使用する情報が母親自身の内的作業モデルによってどのように異なるのかを検討した。第1子が9ヶ月の母親29名を対象として,質問紙調査と自子以外の乳児が映った映像を刺激として用いた面接調査を実施した。質問紙では,"不安"と"回避"の2次元の内的作業モデルを測定した。映像刺激は3ヶ月児と9ヶ月児が映った15秒のビデオクリップ各5つであり,これらを視聴した後に何に着目して子どもへの関わりを決定するのかを尋ねた。母親の回答を「乳児の情動」「乳児の行動」「母親の主観性」「育児経験」「周囲の環境」の5カテゴリーに分類した上で,内的作業モデル("不安"と"回避"の2因子)を説明変数とした回帰分析を行ったところ,3ヶ月児のビデオクリップに対しては,"不安"が高いほど,また"回避"が低いほど「乳児の行動」への言及が多かった。一方,9月児のビデオクリップに対しては"不安"が高いほど「乳児の情動」への言及が多く,"回避"が高いほど「母親の主観性」に基づいた言及が多くなる傾向が認められた。以上の結果から,母親自身の内的作業モデルの違いによって母親が使用する情報は異なり,"不安"が高いほど乳児に起因した情報を多く使用し,"回避"が高いほど乳児に起因した情報から注意を背ける傾向があることが示された。
【キーワード】母子相互作用,内的作業モデル,ビデオクリップ,主観性
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◆坂本 篤史:授業研究の事後協議会を通した小学校教師の談話と教職経験:教職経験年数と学校在籍年数の比較から
本研究では,小学校の校内授業研究会の事後協議会(以下,協議会)を対象に検討することで,ある学校の教師文化への習熟が教師の発達を支える社会的環境に与える影響を明らかにした。協議会談話の「実践の表象」(Little, 2002, 2003)に着目し,教職経験年数および学校在籍年数との関連性について,2つの予想を立てて分析した。データは,ある公立小学校の協議会6回の談話記録と,参加教師全員に実施した直後再生課題の結果を用いた。結果,学校在籍年数と授業の問題点,可能性に関する発言とに正の相関が認められた。また,教職経験年数と授業の解釈,代案に関する発言とに正の相関が認められた。学校在籍年数と授業の問題点,可能性,代案を提示する発言の被再生数とに正の相関が認められた。教職経験年数の長い教師は,豊富な知識に基づいて,授業の解釈や代案を提示することが示された。学校在籍年数の長い教師は,所属校の授業に対する視点や授業理念を示す発言をし,他の教師に聴かれ記憶されることが示された。本研究の意義は,第1に,教師の発達を支える社会的環境である協議会談話について,ミクロ水準で実時間に即した分析を行った点である。第2に,学校在籍年数を指標とした分析を行うことで,教師の発達を学校の文脈から捉える視点について傍証した点である。
【キーワード】教師の発達,実践の表象,校内授業研究,教師の談話,校内教師文化
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◆ 深瀬 裕子・岡本 祐子:高齢者の語りに基づく母親的人物との相互性の変容
Erikson, Erikson, & Kivnick(1986/1990)によれば,乳児期に顕著となる基本的信頼感 vs. 基本的不信感は,後に続く全ての心理社会的課題の支えとなると同時に,それ自体も発達するものである。本研究では,この信頼感の発達に重要な役割を果たす母親的人物との相互性に着目し,その乳児期から老年期に至る変容過程を,高齢者の内的現実から捉えることを目的とした。半構造化面接を行い,66-86歳の17名(平均年齢74.88歳,SD=5.34)から母親的人物との相互性に関する語りを得た。語りにおいて,乳幼児期に実母に養育されていても老年期において意識される母親的人物が実母とは限らなかったことから,発達に伴い母親的人物が移り変わる可能性が指摘された。語りの分析を行った結果,母親的人物との相互性は21個の上位コードと32個の下位コードに集約され,上位コードを総合し母親的人物との相互性の変容モデルを作成した。これらより,中年期における母親的人物の衰弱や物理的喪失体験が,悲嘆の過程や喪失後の母親的人物の内在化とその相互性に関連していることが示唆された。さらに,老年期においては母親的人物の内在化が多くの対象者で認められ,喪失した愛着対象として高齢者の生活に多様な影響を与えていることが示された。
【キーワード】老年期,母親的人物,相互性,変容過程,E.H. Erikson
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◆ 仲野 真史・長崎 勤:幼児におけるナラティブの結束性の発達:ケーキ作り経験に関する報告の分析を通して
本研究では,直前の経験に関する3〜6歳の幼児の語りを分析し,ナラティブ構造の発達について検討した。実験者と幼児でケーキを作り,ケーキ作りの経験を母親に報告するという場面を設定した。ケーキ作りの過程には,実験者が卵を落とす等のハプニングを含めた。報告場面のナラティブを結束性という観点から分析した。3歳では自発的に連続して述べる出来事の数が少なかった4歳では多くの出来事を時間的に結びつけて語るようになった。5,6歳では,特にハプニングを含む出来事を因果関係で結びつけたり,意図的状態と関連させて語るようになった。これらの結果から,4歳頃に時系列性が,5歳頃に主観的視点からの意味づけが,ナラティブ構造に現れることが明らかにされた。異なる文化圏を対象とした先行研究においても類似した結果が示されており,何らかの共通した背景の存在が示唆された。また本研究で示されたナラティブ構造の発達的変化と自他理解の発達の関連が示唆され,今後の検討課題として提起された。
【キーワード】ナラティブ,語り,談話,結束性,幼児
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◆ 水口 啓吾・湯澤 正通:日本語母語大学生・大学院生における英単語音声の分節化:英単語の記憶スパンを手掛かりとして
本研究では,日本語母語大学生・大学院生60名を対象として,音韻構造の異なる5つの英単語(CV,CVC,CVCV,CVCC,CVCVC)を用いた記憶スパン課題を行い,英単語音声知覚時の分節化について検討した。その結果,以下のことが明らかになった。第1に,参加者全体の記憶スパンを音韻構造で比較したところ,CVCとCVCV,CVCCとCVCVCの記憶スパンはそれぞれ同じだが,CVC,CVCVの記憶スパンは,CVCC,CVCVCの記憶スパンよりも長かった。第2に,モーラ分節者の反復音声持続時間は,もとの音声刺激の持続時間や,混合分節者のそれよりも長くなる傾向が見られた。第3に,TOEIC得点の高い英語能力高群の記憶スパンでは,低群のそれよりも,音節による分節化と一致するパターンが多く見られた。以上の結果から,長期間,英語学習を積んできた大学生・大学院生であっても,英単語音声の知覚や音韻的短期記憶内での処理において,日本語母語のリズムの影響を強く受けること,そして,英語能力の向上は,音節による分節化と密接な関連があることが示唆された。
【キーワード】英語,音声知覚,分節,モーラ,音韻的短期記憶
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◆ 小川 真人・高橋 登:幼児の役割遊び・ふり遊びと「心の理論」の関連
本研究では,「心の理論」とふり遊び,役割遊びの関係について実験的に検討した。モジュール説が想定するようにふりと「心の理論」が同一のメカニズムで説明可能であるとすれば,ふり遊びと心の理論との間に直接の関連が見られるであろうし,理論説やシミュレーション説が妥当であるとすれば,その間に直接の関連は見られないであろう。ただし,シミュレーション説による説明が妥当なものであるとすれば,ふり遊びは役割遊びを可能にすることを通じて「心の理論」の獲得を助けるであろう。本研究では,実験1において誤信念課題を実施し,あわせてふり遊びと役割遊びの課題を実施することで,「心の理論」とふり遊び,役割遊びの間の関係を実験的に検討し,実験2では,短期縦断的にふり遊びと役割遊びを子ども達に経験させ,それが子どもたちの「心の理論」獲得を助けることになるのか検討した。結果,実験1ではふり遊びと「心の理論」の関連は見られず,役割遊びにおいてのみ「心の理論」との関連が見られた。また,ふり遊びと役割遊びにおいても関連が見られた。さらに実験2ではふり遊び訓練の効果は見られず,役割遊びを訓練的に行うことで「心の理論」課題の得点が高くなった。本研究では,ふりにおける物の見立てや,現実とふりの区別と「心の理論」との関連は見られず,役割遊びにおいて他者の視点に立ち,そこで他者の感情や行動を考えることが「心の理論」と関連すると考えられた。
【キーワード】心の理論,役割遊び,ふり遊び
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◆ 原田 新:発達的移行における自己愛と自我同一性との関連の変化
本研究の目的は,青年期から成人期への発達的移行に伴う自己愛と自我同一性との関連の変化について検討することであった。青年期として18歳〜25歳の大学生・大学院生の371名,成人期として26歳〜35歳の352名に対して,自己愛と自我同一性の尺度を含む質問紙調査を実施した。発達段階ごとに自己愛と自我同一性との関連について検討した結果,特に「注目・賞賛欲求」と「共感性の欠如」に関して,青年期と成人期における注目すべき関連の差異が示された。さらに,それら自己愛の2変数を説明変数,「中核的同一性」,「心理社会的自己同一性」の2種類の自我同一性を目的変数とするモデルを両発達段階に対して仮定し,多母集団同時分析を実施した。その結果,青年期よりも成人期の自己愛の方が自我同一性に対してより強い負の影響を及ぼすことが示された。これらの結果から,「注目・賞賛欲求」や「共感性の欠如」という自己愛的心性を解消することは青年期の発達的課題であり,そのような課題が解決されなかった場合,成人期におけるそれらの高さは自我同一性の形成に負の影響を及ぼすことが示唆された。
【キーワード】自己愛,自我同一性,発達的課題,青年期,成人期
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23巻2号
◆ 稲田 尚子・黒田 美保・小山 智典・宇野 洋太・井口 英子・神尾 陽子:日本語版反復的行動尺度修正版(RBS-R)の信頼性・妥当性に関する検討
反復的行動尺度修正版(Repetitive Behavior Scale-Revised: RBS-R)は,自閉症スペクトラム障害(ASD)児者の反復的行動の種類の多さとその問題の程度を評価する尺度であり,6下位尺度43項目から成る。本研究は,日本語版反復的行動尺度(RBS-R)の信頼性と妥当性の検討を目的として行われた。対象者は,ASD群53名(男性:女性=42:11;平均年齢=11.2±10.5歳)と,対照群40名(知的障害児者23名,定型発達児者17名)とした。養育者の報告に基づき,専門家が日本語版RBS-Rを評価した。Cronbachのα係数は0.91であり,良好な内部一貫信頼性を示した。各43項目における評定者間一致度(級内相関係数)は0.79から1.00の範囲であり,評定者間信頼性は高かった。日本語版RBS-Rの該当項目数および合計得点はいずれもASD群で対照群よりも有意に高く,十分な弁別的妥当性を示した。また,合計得点は,小児自閉症評価尺度東京版に含まれる反復的行動に関連する3項目の合計得点と有意な正の相関(r=0.65)があり,併存的妥当性が確認された。今後,さらなる検討が必要であるが,日本語版RBS-Rの信頼性と妥当性が示された。
【キーワード】自閉症スペクトラム障害,日本語版反復的行動尺度,信頼性,妥当性
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◆ 栗田 季佳・前原由喜夫・清長 豊・正高 信男:発達障害のある外国人児童への社会的相互作用トレーニングの効果:実行機能に注目した共同パズル完成課題
近年,実行機能は発達障害,特にADHDのトレーニングに重要な概念として注目されているが,社会性の改善に関しては明確なトレーニング効果が確認されていない。本研究は,外国人のADHD児を対象に社会性向上のトレーニングとして,対人場面における実行機能に注目し,共同パズル完成課題を実施した。共同パズル完成課題では,2人で2種類のパズルに取り組み,協力して完成させることを心掛けるよう教示する。この課題は単純にパズルを完成させるだけでなく,他者を視野に入れた行動調整を必要とし,その点で対人的・情動的要素を含む実行機能の使用を要求する課題だといえる。課題はADHDの外国人児童2名に,2か月間継続的に実施した。その結果,両児童の協力行動の増加と,離席行動の減少という改善がみられた。しかしながら,実行機能課題の成績はこのトレーニングによって改善しなかった。これらの結果は,実行機能が単一の構成体ではなく,社会性に関わる情動的実行機能と純粋な認知的問題の解決を担う認知的実行機能に機能的に弁別されるという近年の知見を支持している。社会性と実行機能の関係について,また,在日外国人の発達障害への介入について議論した。
【キーワード】社会性,ADHD,外国人児童,実行機能
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◆ 山根 隆宏:高機能広汎性発達障害児・者をもつ母親における子どもの障害の意味づけ:人生への意味づけと障害の捉え方との関連
本研究の目的は,高機能広汎性発達障害(以下,HFPDD)児・者の母親が障害のある子どもを育てる経験を人生にいかに意味づけているのかを,新たな悲嘆理論の知見に基づき,子どもの障害の捉え方との関連から明らかにすることであった。HFPDD児・者をもつ母親19名に対して半構造化面接を行い,障害のある子どもをもつことの意味づけや子どもの障害の捉え方についての語りを得た。人生に対する子どもの障害の意味づけの特徴について,「自己の成長への価値づけ」「子どもへの感情」「障害の位置づけ」の3つの視点から分類を行ったところ,「成長・肯定型」「両価値型」「消極的肯定型」「自己親和型」「見切り型」「希薄型」の6つの類型とその特徴を明らかにした。また,子どもの障害の意味づけと障害の捉え方との関連からは,人生に子どもの障害を肯定的に位置づけるかどうかは,障害それ自体や障害を含めた子どもに対して社会的意義や価値を見出すことと,障害を認識する上での困難さや葛藤の強さが関連していると考えられた。
【キーワード】高機能広汎性発達障害,意味づけ,障害受容,障害児の親,生涯発達
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◆ 栗山 容子・大井 直子:日本人大学生の価値意識
価値をアイデンティティ発達の中核に位置づけて,日本の大学生の価値意識を面接によって明らかにし,意味付与の志向性から構造化を試みた。またその発達的変化を追跡面接によって検討した。面接の内容領域のうち,生きていく上で大切なことという価値意識に関する分析を中心に,揺らぎの経験や両親の価値の認知,宗教的価値意識を補足分析として実施した。研究1では1年生42名と4年生24名のスクリプトから8つの価値パターンを抽出した。価値パターンの意味付与の方向性から,自己志向(理性,努力・達成,自己準拠の3価値パターン),社会志向(人間関係,博愛・貢献,社会規範の3価値パターン),現実志向(積極行動,安楽・充足の2価値パターン)の3つの志向モードに構造化した。普遍的な価値に対応する価値パターンの他に"人間関係"や"自己準拠"の青年期に固有の価値パターンが明らかになった。1年では社会志向の"人間関係"が他の価値パターンに比して有意に多く見られたが,4年では偏りが少なく,個々の価値意識が窺われた。また4年では価値意識の揺らぎが落着し,両親の価値観の認知に個別性がみられた。研究2 では研究1の1年生で,卒業時の追跡面接が実施できた30名について価値意識の変化を検討した。その結果,変化の方向性は一様ではなかったが,自己志向と社会志向に関連して青年期に特有の変化過程が推測された。
【キーワード】価値意識の構造,日本人大学生,半構造化面接,追跡面接,志向性
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◆ 佐藤 鮎美・内山伊知郎:乳児期における絵本共有が子どもに対する母親の働きかけに及ぼす効果:絵本共有時間を増加させる介入による縦断的研究から
本研究では,生後9ヶ月児とその母親を対象に,絵本共有時間を3ヶ月間操作的に増加させた絵本群,および特に教示を与えない統制群を設定し,絵本共有増加期間前後における両群の母子相互作用を自由遊び場面において観察した。それにより,絵本共有が子どもに対する母親の働きかけに及ぼす効果を,縦断的に検討することを試みた。その結果,絵本群では,母親の子どもに対する賞賛および子どものほほえみの頻度が統制群に比べて増加することが示され,絵本共有により母親の子どもに対する敏感な働きかけが増加する可能性が示唆された。さらに,絵本群において,子どもがほほえみながら母親を見上げる頻度が統制群に比べて増加することが示され,絵本共有によって子どもの感情共有が促される可能性が見出された。これらの結果から,絵本共有時間の増加によって,母親および子どもの行動が変容することが実証的に示唆され,絵本共有が母子関係の質を向上させるメカニズムの一端が明らかにされた。
【キーワード】絵本共有,介入,母親の働きかけ,乳児期,縦断研究
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◆ 吉武 尚美・松本 聡子・室橋 弘人・古荘 純一・菅原ますみ:中高生の生活満足度に対するポジティブな個人内特性と対人関係の関連
中学生や高校生が生活全般に抱く満足度評価(以下,生活満足度)に関連する要因として,パーソナリティや学力などのポジティブな個人内特性をはじめ,家族関係や友人関係などの対人関係が検討されてきたが,これらがどのように関連しあって生活満足度に結実するのかは明らかでない。そこで本研究は,ポジティブな個人内特性と対人関係が,生活満足度とそれぞれ独自に関連し,同時に対人関係は個人内特性にも関連するというモデルを構成し,両親の学歴と生徒の性別の影響を統制した上で検証した。加えて,モデルの変数間の関連性に発達的な違いが見られるか検討した。中学1年生( n=254) と高校1年生( n=368) の質問紙データを用い,共分散構造分析により仮説モデルの検証を行った結果,モデルの妥当性が確認され,さらに多母集団同時分析により仮説モデルは中学生と高校生でともに成立し,関連性の度合いもほぼ同程度であることが確認された。ただし,家族関係から個人内特性に引いたパス係数は中学生の方が高校生より有意に大きく,家族環境の良好さと個人内特性の関連性は中学生にとってより顕著であることが示唆された。
【キーワード】生活満足度,ポジティブな個人内特性,対人関係,思春期,共分散構造分析
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◆ 山口 真希:知的障害児における数概念の発達と均等配分の方略
知的障害児の数概念の発達は単純に「遅れ」るのだろうか。知的障害児が生活のなかでどのようにインフォーマル算数の概念を獲得していくのかについてはあまり明らかにされていない。本研究では,知的障害のある中学生(N=15)を対象に,数概念(計数,多少等判断,保存)および均等配分課題を実施し,知的障害児の数概念発達を日常的行為との関連で明らかにすることを目的とした。その結果,知的障害児について以下のことが示された。(1)数概念の発達は,生活年齢ではなく精神年齢に関係する。ただし,課題の取り組み方は同じ精神年齢の通常発達児と異なっている部分がある。(2)精神年齢,数概念の発達がともに幼児期段階であっても簡単な演算スキルを有している生徒がいる。(3)均等配分方略の差異は,生活年齢ではなく精神年齢に関係する。また精神年齢で対応させた通常発達児と比べると均等配分課題の成績がやや低い。(4)計数概念の有無,多少等判断概念の有無によって,採用する均等配分方略に違いが見られる。以上より,知的障害児の数概念と均等配分方略は相互に関連して発達し,通常発達児と異なるプロセスを経ている可能性が示唆された。
【キーワード】数概念,均等配分,配分方略,知的障害児,インフォーマル算数
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◆ 中島 伸子:老化現象についての理解の発達的変化:老年期における身体・心的属性の機能低下に焦点をあてて
本研究の目的は,老年期における身体・心的属性の機能低下について,幼児や小学生がどのように理解しているのか,そしてそれはどのように発達するかを検討することであった。24名の5歳児,28名の6歳児,24名の7歳児,28名の8歳児,31名の大学生の5群を対象に,5種の身体属性(走る速さ,風邪に対する耐性,腕力,心臓の働き,骨の強度)と心的属性として記憶力の計6属性について,5歳(幼児)から21歳(若年成人)および21歳から80歳(高齢者)へと加齢後どのように変化するかを「以前より衰退する」「以前より向上する」の2選択肢のもとで予測させた。その結果,(1)老年期における身体属性の機能低下については,5歳から気づきはじめ,6歳では大学生と同程度の理解に達すること,(2)老年期における記憶力の低下についての理解は,幼児から7歳くらいまでは希薄なのに対して,8歳以降,大学生にいたるまでに明確になること,(3)記憶力の低下についての理解の発達的変化には,記憶力と身体ないしは脳(頭)との関連性についての認識が関与していることが見出された。老化現象の理解の発達に関わる認知的要因について,素朴生物学の発達と心身相関的な枠組みの獲得という観点から考察した。
【キーワード】概念発達,素朴生物学,老化現象の理解,心身の相互性の理解,幼児期
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◆ 戸田 まり・渡辺 恭子:あいまいな攻撃に対する解釈と対処行動の発達:社会的情報処理の視点から
思春期前後の定型的な社会的情報処理の発達を調べるため,複数の想定場面を作成し,小学校5年から高校2年までの男女計716名に対し調査を行った。あいまいな状況で被害を受けた場合,アプリオリに相手の敵意を想定したり攻撃的な対応をする者は,年齢と共に減少することが明らかになった。しかし口に出さない内面での感情的反応は中学1年で最も否定的であり,この時期が,認知的には「相手の悪意ではない」と理解しながらも感情的には怒りを覚える度合いが高いのではないかと示唆された。相手の行動の解釈,生起感情,予想される対応をクラスター分析により4パターンに分けて発達的変化を調べた結果からもこのことは確認された。また中学生以上では,相手の敵意を想定しやすく感情的にも否定的になりやすく対応も攻撃的になりやすい群は,学校満足度や自分の学業成績に対する満足度は他の群と変わらないが,家庭での受容や親への気持ちについては他の群より否定的であり,家庭での人間関係があいまい状況でのネガティブな社会的情報処理と関連している可能性が示唆された。
【キーワード】社会的情報処理,敵意帰属,思春期,生起感情,定型的発達
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◆ 杉本 英晴・速水 敏彦:大学生における仮想的有能感と就職イメージおよび時間的展望
青年期は職業につく準備期間とされ,とくに青年期後期に行われる進路選択は非常に重要である。しかし最近,大学生における進路選択の困難さが指摘されている。本研究では,仮想的有能感の類型論的アプローチから就職イメージについて検討することで,他者軽視に基づく仮想的有能感と進路選択の困難さに影響を及ぼす就職に対するネガティブなイメージとの関連性について検討することを目的とした。本研究の目的を検証すべく,大学生339名を対象に,自尊感情尺度,他者軽視尺度,就職イメージ尺度,時間的展望体験尺度から構成された質問紙調査を実施した。その結果,他者軽視傾向が高く自尊感情が低い「仮想型」は,他者軽視傾向が低く自尊感情が高い「自尊型」と比較して,就職に対して希望をもてず,拘束的なイメージを抱いていることが明らかとなった。また,「仮想型」の時間的展望は,過去・現在・未来に対して肯定的に展望していないことが確認された。本研究の結果から,肯定的な展望ができない「仮想型」は,他者軽視を就職にまで般化していると考えられ,「仮想型」にとって就職することをネガティブにとらえることは,自己評価を最低限維持する自己防衛的な役割を果たしている可能性が示唆された。
【キーワード】就職イメージ,仮想的有能感,時間的展望,進路選択の困難さ,大学生
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23巻3号
◆ 江村 早紀・大久保智生:小学校における児童の学級への適応感と学校生活との関連:小学生用学級適応感尺度の作成と学級別の検討
本研究の目的は,個人―環境の適合性の視点から適応状態を測定する小学生用の学級適応感尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討すること(研究1)と作成された学級適応感尺度と学校生活の要因(教師との関係,友人との関係,学業)との関連を学級の特徴別に検討すること(研究2)であった。研究1では,因子分析の結果,「居心地の良さの感覚」「被信頼・受容感」「充実感」の3因子が抽出された。作成された学級適応感尺度は,信頼性と妥当性を有していると考えられた。研究2 では,担任教師が認知している学級雰囲気をもとに学級を分類して,学級への適応感と学校生活の要因との関連について重回帰分析を用いて検討した。その結果,学級への適応感と「友人との関係」が最も強く関連する学級もあれば「教師との関係」が最も強く関連する学級もあったように,学級への適応感と学校生活の要因との関連の仕方は学級により異なっていた。また,どの学級においても「教師との関係」が児童の適応感と正の関連を示すという点で,青年の適応感と異なっていた。以上の結果から,学校における児童の適応感を検討する際には,学級集団の重要性や学級担任制という小学校固有の制度などの特色を考慮して,
学級の特徴を踏まえたうえで,研究を行っていく必要性が示唆された。
【キーワード】学級への適応感,個人―環境の適合性,児童,学校生活,担任教師
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◆ 砂上 史子・秋田喜代美・増田 時枝・箕輪 潤子・中坪 史典・安見 克夫:幼稚園の片付けにおける実践知:戸外と室内の片付け場面に対する語りの比較
本研究の目的は,戸外と室内という状況の違いによる幼稚園の片付けの実践知を明らかにすることである。戸外と室内の片付け場面の映像に対する3 園の保育者の語りを,質的コーディング(佐藤郁哉,2008)の手法を用いて分析,考察した。その結果,次のことが明らになった。(1)戸外と室内に共通して,保育者は主に子どもの遊びを尊重する,片付けを実行する,言葉かけを工夫する,次の活動の見通しを与える,などの方略を組み合わせて片付けを進める。(2)戸外では,活動範囲が広く空間の移動を伴うため,保育者は子どもとの距離に配慮する。(3)戸外では,満足感や必要感から子ども自身が遊びを終えるように,保育者は遊びを尊重したかかわりを行う。(4)戸外では,子どもとの距離の配慮の仕方や,遊びの尊重と片付けの実行とのバランスは,園の構造的特徴に影響される。(5)室内では,空間の移動がないことなどから,保育者は遊びと片付けが重複する状態で片付けを進める。(6)室内では,保育者は子どもとかかわりながら一緒に片付けを進め,言葉かけに留意し工夫する。
【キーワード】実践知,状況の違い,幼稚園,片付け,保育者の語り
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◆ 中島 俊思・岡田 涼・松岡 弥玲・谷 伊織・大西 将史・辻井 正次:発達障害児の保護者における養育スタイルの特徴
本研究では,発達障害児の保護者における養育スタイルの特徴を明らかにすることを目的とし,定型発達児の保護者との比較および子どもの問題行動,保護者の精神的健康との関連について検討した。対象者は発達障害児の保護者139名であり,質問紙調査によって,養育スタイル,子どもの問題行動(SDQ),子どものADHD傾向(ADHD-RS),保護者の抑うつ(BDI-II),睡眠障害(PSQI-J)を測定した。その結果,養育スタイルについては,発達障害児の保護者と定型発達児の保護者とで差がみられ,発達障害児の保護者においては,肯定的関わりや相談・つきそいの得点が低く,叱責,育てにくさ,対応の難しさが高い傾向がみられた。また,子どもの問題行動やADHD傾向が高いほど,肯定的関わりや相談・つきそいが低く,叱責,育てにくさ,対応の難しさが高い傾向がみられた。精神的健康については,肯定的関わりや相談・つきそいは抑うつ,睡眠障害と負の関連を示し,叱責,育てにくさ,対応の難しさは正の関連を示した。以上の結果から,発達障害児の保護者における養育スタイルの特徴が明らかにされた。最後に,養育スタイルに対する発達臨床的な介入の必要性について論じた。
【キーワード】養育スタイル,発達障害,問題行動,精神的健康
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◆ 西田裕紀子・丹下智香子・富田真紀子・安藤富士子・下方 浩史:中高年者の開放性が知能の経時変化に及ぼす影響:6年間の縦断的検討
本研究では,中高年者の開放性がその後6年間の知能の経時変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。分析対象者は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第2次調査及び6年後の第5次調査に参加した,地域在住の中年者及び高齢者1591名であり,開放性はNEO Five Factor Inventory,知能はウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)を用いて評価した。反復測定分散分析の結果,開放性が知能の経時変化に及ぼす影響は,知能の側面や年代によって異なることが示された。まず,「知識」得点の経時変化には,高齢者においてのみ開放性の高低が影響しており,開放性が高い高齢者はその後6年間「知識」得点を維持していたが,開放性が低い高齢者ではその得点が低下することが示された。一方,「類似」,「絵画完成」,「符号」では,開放性が高い中高年者は低い中高年者よりも得点が高いことが示されたが,開放性の高低による経時変化への影響は認められなかった。以上より,中高年者の開放性は知能やその経時変化の個人差の要因となること,特に高齢者にとって,開放性の高さは一般的な事実に関する知識量を高く維持するために役立つ可能性が示唆された。
【キーワード】開放性,知能,中高年者,縦断研究
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◆ 大野 祥子:育児期男性にとっての家庭関与の意味:男性の生活スタイルの多様化に注目して
本研究は男性のワークライフバランスから抽出した「生活スタイルのタイプ」ごとに,夫婦間での職業役割と家庭役割の分担のしかたが彼らの生き方満足度にどのように影響するかを検討し,男性にとっての家庭関与の意味を再考することを目的とする。調査対象は3〜4歳の子どもを持つ育児期男性332名であった。仕事を生活の最優先事項とする2タイプ(「仕事+余暇型」・「仕事中心型」)と,仕事と家庭に同等のエネルギーを傾注する「仕事=家庭型」の下位分類2タイプ(「二重基準型」・「平等志向型」),計4タイプについて,男性の生き方満足度を基準変数とする階層的重回帰分析を行った。「仕事+余暇型」の満足度は家庭関与の変数によっては説明されなかった。「仕事中心型」では休日家族と過ごす時間がとれ育児に関わる余裕のあることが満足度と関連していた。家庭志向の高い2タイプのうち「平等志向型」は自身の家事分担率の高さが生き方満足度を高める共同参画的な結果が見られたが,「二重基準型」では妻が性別役割分業に賛成であることのみが有意な効果を持っていた。これまで男性の家庭関与は妻子や男性本人の適応・発達にプラスの効果を持つとされてきたが,タイプごとに異なる意味を持つことが明らかになった。男性の家庭関与の議論は夫婦関係や労働環境など,より広い文脈の中で捉え,稼得や扶養は男性の役割とする男性性役割規範の見直しを伴うことが必要であろう。
【キーワード】育児期男性,ワークライフバランス,生活スタイルの多様化,家庭関与,生き方満足度
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◆ 金政 祐司:相互支援が関係満足度ならびに精神的健康に及ぼす影響についての青年期の恋愛関係と中年期の夫婦関係の共通性と差異
本研究は,成人の愛着関係として捉えられる青年期の恋愛関係ならびに中年期の夫婦関係において,相互の支援が関係満足度と精神的健康に及ぼす影響の過程に関して,多母集団同時分析を行いその共通性と差異について検討することを目的として行われた。調査対象者は,104組の青年期のカップルならびに156組の中年期の夫婦であった。分散分析の結果,支援に関する変数(「本人の支援期待」,「相手の支援遂行度」,「本人による相手支援の認知」)ならびに関係満足度については,中年期の夫婦関係よりも青年期の恋愛関係においてそれらの得点は高く,また,本人の支援期待については男性よりも女性の方が高いことが示された。精神的健康は青年期の恋愛関係よりも中年期の夫婦関係において良いことが示された。加えて,相互の支援が関係満足度と精神的健康に及ぼす影響の過程についての分析の結果,中年期の夫婦関係においては,「本人の支援期待」が「相手の支援遂行度」を促進し,「本人による相手支援の認知」に影響を及ぼしていたが,青年期の恋愛関係においてはそのような傾向は認められなかった。また,「本人による相手支援の認知」が関係満足度に対してポジティブな影響を及ぼし,さらに,関係満足度が精神的健康に影響するというプロセスについては双方の関係において認められた。それらの結果について青年期の恋愛関係と中年期の夫婦関係の共通性と差異の観点から議論を行った。
【キーワード】青年期の恋愛関係,中年期の夫婦関係,支援,関係満足度,精神的健康
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◆ 山形 恭子:絵本課題における表記知識・手続き的知識の発達
本研究では絵本における文章の読みに関する表記知識・手続き的知識の発達を4側面から捉え,ひらがな読字能力との関連のもとに検討した。調査対象児は2歳半から4歳の年少児40名(研究1)と4歳から6歳の年長児66名(研究2)である。絵本課題では絵本を読み聞かせながら質問をする対話方式を用いて絵本に関する手続き的知識,文字表記知識,読みの手続き的知識,意味理解の4 側面に関する理解を発達的に調べた。結果はこれらの4側面の理解に関して3段階の発達様相が見出された。2歳半児は絵本に関する手続き的知識や文字同定,頁間の方向性,意味内容を理解していたが,読みの手続き的知識と文字表記知識の理解は年齢にともなって発達した。特に,読みの手続き的知識のなかの最初の頁の読みの始点に関しては4 歳以下では理解できず,4歳以上の年長児で年齢にともなってその理解が進展した。また,読みの手続き的知識と文字表記知識はひらがな読字能力と有意な相関がえられ,読字能力の習得が関連した。これらの結果は絵本読みにおける表記知識・手続き的知識の発生・発達過程ならびに文字の習得との関係や方法論に基づいて考察された。
【キーワード】表記知識・手続き的知識,読み,発達過程,読字能力,2.5歳〜6歳児
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◆ 青木 直子:小学校1〜3年生の自然場面におけるほめられた体験のとらえ方:ほめられた場面に存在する要因とその働き
本研究は,自然場面において子どもがほめられる場面に注目し,子どものほめられる経験の認識と動機づけの関連について検討したものである。研究1では,小学校1〜3年生に対して,ほめられてがんばろうと思ったことをたずねるインタビュー調査を行い,子どもの報告に含まれる要因を整理した。その結果,ほめられた時期・ほめ手・ほめられたことがら・ほめられた活動をするに至った背景・ほめられた活動に対する評価・ほめられ方・感情という7つの要因が見出され,ほめられたことがら・ほめられ方・ほめ手という要因が報告されやすいことが明らかになった。研究2では,子どもにほめられてがんばろうと思ったエピソードをたずね,ほめられて動機づけが高まるとき,そのエピソードにおけるほめられたことがら・ほめられ方・ほめ手の中でもっとも重要であるものを選択させ,その選択理由をたずねた。その結果,ほめられたことがらという要因はその活動の価値を決定するため,動機づけに影響をもたらすこと,ほめ手という要因はほめ手に対する肯定的感情や対人的欲求に差異を生じさせるため,動機づけが変化すること,ほめられ方という要因はその内容やフィードバックの際の口調などによって子どもに自信をもたせるため,動機づけを高めることが示唆された。
【キーワード】ほめ,動機づけ,自然場面,要因
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◆ 細谷 里香・松村 京子:児童と関わるときの教育実習生の情動能力:優れた教師との比較
我々は以前,優れた教師が子どもと関わるときに自身の情動能力に自覚的であり,子どもの前での情動表出を指導に用いる有効なスキルの一つとして捉えていることを報告した。本研究は,教育実習に参加した教員養成課程在籍学生の子どもと接しているときの情動体験および情動表出パターンを明らかにし,実習生と優れた教師の情動体験・情動表出および調整プロセスの比較により,今後の教員養成への示唆を考察することを目的とした。教育実習終了後の大学生計41人に,個別に半構造化面接を実施し,質的な分析を行った。実習生は,子どもと関わっている時に,喜びなどのポジティブ情動とともに,怒り,悲しみ,恐れ,嫌悪などのネガティブ情動も感じていた。ネガティブ情動は子どもだけでなく,自分自身によっても喚起されていた。優れた教師との顕著な違いは,実習生が教師としての未熟さに由来する恐れを感じていたことであった。情動表出パターンとしては,自然な表出,情動の直接的演出,抑制等のほかに,実習生の顕著な特徴として,恐れのコントロール不能が見出された。優れた教師が自覚的に行っていた怒りの直接的演出は,実践を困難に感じる実習生がいたことが明らかとなり,実習生の怒りの演出に関連する情動調整プロセスが見出された。教員養成教育において,子どもと関わるための教師の情動能力への気づきを促すような教育が求められる。
【キーワード】情動能力,教育実習生,情動表出,情動調整,感情労働
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◆ 高橋 登・大伴 潔・中村 知靖:インターネットで利用可能な適応型言語能力検査(ATLAN):文法・談話検査の開発とその評価
筆者らはこれまで,インターネットで利用可能な適応型言語能力検査(ATLAN)として,語彙,漢字の2つの検査を開発してきた。本研究ではその下位検査として新たに作成した文法・談話検査について,その特徴と妥当性を検討した。最初に本研究で測定しようとする文法・談話の能力について先行研究に基づき定義を行った。研究1では,この定義をもとに小学生を対象とする課題として8種類の問題タイプについて計67課題を作成,これを2つの版に分けて小学1〜3年生309名に実施した。また幼児を対象とする課題として12種類の問題タイプについて計67課題を作成,これを2つの版に分けて幼稚園児258名に実施した。項目特性曲線のデータとの当てはまりの程度を考慮し,最終的に128項目を項目プールとして選定し,文法・談話検査としてATLANに追加実装してインターネットを介してWebで利用できるようにした。次に研究2において,妥当性を検討するために,ATLAN語彙,文法・談話検査とLCスケール(大伴・林・橋本・池田・菅野,2008)を幼稚園児59名に実施した。ATLAN2検査を説明変数,LCスケール得点を目的変数とする重回帰分析を行った結果,2課題で目的変数の分散の48%が説明されることが示された。最後に,ATLAN文法・談話検査について残された課題について論じ,ATLANの今後の拡充方針について解説した。
【キーワード】文法能力,ATLAN,適応型検査,項目反応理論
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23巻4号
◆ 阿部 彩:「豊かさ」と「貧しさ」:相対的貧困と子ども
日本の子どもの相対的貧困率は16%であり,約6人に1人が相対的貧困状態にあると推計される。しかしながら,この相対的貧困の概念については,研究者らも含め殆ど知られておらず,この数値の意味するところが理解されていないのが現状である。本稿では,子どもの相対的貧困率の現状と動向を把握した上で,「豊かさ」と「貧しさ」という観点から,相対的貧困と絶対的貧困の概念の違いを明らかにする。また,一般市民の貧困の概念が,絶対的貧困や物質社会に反抗する精神論に強く影響されており,それが現代における貧困(相対的貧困)の議論の本質を見えにくくしている点を指摘した。最後に,相対的貧困が,どのようにして子どもの健全な育成を妨げているかについて,一つは相対的貧困にあることが子ども自身の社会的排除を引き起こすリスクが高いこと,二つが,子どもが相対的貧困の状態であるということは,親も相対的貧困状況にあるということであり,貧困が親のストレスを高め,親が子どもと過ごす時間を少なくし,孤立させることにより,厳しい子育て環境に置かれていることを指摘した。「豊かさ」や「貧しさ」は相対的な概念であり,たとえ豊かな社会であっても相対的貧困にあることは大きな悪影響を子どもに及ぼす。
【キーワード】子どもの貧困,社会的排除
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◆ 伊藤 哲司:「平等」のなかの貧困:ベトナム・フエの水上生活の家族たち
本稿は,ベトナム中部の古都フエで水上生活を営んでいる家族たちに焦点を当てたものである。社会主義を堅持するベトナムではみなが「平等」であるはずだが,しかし現実にそうとは言い難い。水上生活者たちの一家族あたりの子どもたちの数は多く,その多く学校に通うことができないでいる。学校に通えない理由は「貧困」であって,それ以外の大きな要因は見いだしにくい。本稿では,2006年に行ったフエの水上生活者についてのフィールド調査を通して,そこで暮らす家族の生活世界の一端を描写し,そのことを通してベトナムにおける「『平等』のなかの貧困」の問題とは何かを考察した。そして,「貧困」のもつ必ずしもネガティブとは限らない側面についての試論を試みた。フィールド調査を通して,戸籍がない,十分な医療が受けられない,子どもを保育所などに預けたり学校へ行かせたりすることが難しいといった問題が浮き彫りになったが,同時に経済的な豊かさとは別の「豊かさ」が子どもたちの表情などから窺え,また人々の精神的な支えが何なのかについての検討が,今後の研究課題として残された。
【キーワード】ベトナム,フエ,水上生活者,「平等」のなかの貧困,精神的な支え
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◆ 長谷川智子:食発達からみた貧しさと豊かさ: 飢餓と肥満を超えて
本研究の目的は,食発達における貧しさと豊かさを論じるために,生態学的な視点からマクロ水準とミクロ水準における食の現状を検討することであった。マクロ水準では,世界における貧困と飢餓,飽食と肥満の現状をとらえた上で,世界的な規模のフードシステムが生みだしている貧困と肥満を論じた。ミクロ水準では,日本での個人の食卓において,主に食における相互作用の貧しさを検討した。これらのことを踏まえて,マクロ水準とミクロ水準での食の豊かさとは何であるかが議論された。すなわち,マクロ水準での食の豊かさとは,生産と消費がより民主化されること,消費者がフードシステムの現状を理解した上で主体的に食品選択ができること,食文化が新たに創出されることであった。ミクロ水準での食の豊かさとは,子どもが家族や仲間から人間として受容されながら共食をすることだけでなく,動植物の命をいただく感謝の気持ちをもち,家族や仲間と一緒に料理をして自分たちの食べ物を作り出すことである。このような豊かな食であれば,発展途上国の貧困な食においても家族や大切な人とのつながりのなか実現できることが示唆された。
【キーワード】食発達,貧困,豊かさ,飢餓,肥満
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◆ 川野 健治:貧困と社会病理:暴力,自殺
本稿の目的は,暴力と自殺を通して貧困について考えることである。ただし,社会的排除を強めることになりかねないので,暴力と自殺の共通性を仮定することには慎重でありたい。貧困は,アノミー論や内的衝動論が示すように,個体の暴力発生の確率を高める側面をもっている。しかし,そればかりではなく,児童虐待,配偶者間暴力,犯罪の側面からみると,暴力の方向性に影響を与えている可能性がある。一方,自殺については,景気変動との関係は指摘されており,理論的な説明も試みられている。しかし,社会経済状況やそれに基づく社会資源の不足を指標とした貧困と自殺関連行動との関係性についての実証的研究では,一貫した結果は得られていない。暴力と自殺を通して見出される貧困の特徴とは,解消すべき内的な心理状態を生み出すものであり,その発露に対する防御因子,たとえば家族との適切な交流とか,支援・サービスの利用とか,安定した住環境とか,教育の機会を剥奪するものであった。しかし,逆にいえば,貧困に注目することで,暴力や自殺の発生を規則的に把握することができる。ニッチとしての貧困という視点からの研究を進めることで,これらの社会病理を管理する手がかりを得られるのではないだろうか。
【キーワード】暴力,自殺,貧困,社会資源,対人ネットワーク
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◆ 宮内 洋:貧困と排除の発達心理学序説
本稿では,かつて北海道大学教育学部における学際的研究グループによって進められていた「貧困と子ども」に関する研究の一部を紹介しながら,歴史学やルポルタージュの知見も用いて,発達心理学の基礎的知見と貧困との関係についての考察をおこない,今後の課題を挙げた。具体的には,人間の発達における各ステージのうち,誕生から児童期まで(胎児期,新生児・乳児期,幼児期,児童期)に限定し,この各ステージにおいて,貧困が各々の子どもの発達にどのようにかかわっている可能性があるのかについて,生活環境を中心にして考察をおこなった。このプロセスを通して,これまで日本国内における発達心理学研究の多くが「絶対的貧困(absolute poverty)」の状態にある子どもや養育者を除外してきた可能性を指摘した。しかし,貧困世帯が広がる現代日本社会においては,研究者側が気づかぬままに実験や観察等の場で「相対的貧困(relative poverty)」状態の子どもや養育者にすでに出会っている可能性があることも指摘し,研究者側が貧困と社会的排除に対して自覚的になる必要性を述べた。最後に,本稿での考察から,社会科学的な概念である「絶対的貧困」と「相対的貧困」について,発達心理学の観点からの定義の提唱も試みた。
【キーワード】絶対的貧困,相対的貧困,発達段階,排除
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◆ 呉 宣児・竹尾 和子・片 成男・高橋 登・山本登志哉・サトウタツヤ:日韓中越における子ども達のお金・お小遣い・金銭感覚:豊かさと人間関係の構造
本稿では,日本・韓国・中国・ベトナムの子ども達のお金・お小遣いをめぐる生活世界を捉える。経済的な豊かさの異なる状況のなかでの,子ども達の消費生活の広がり,お金使用における善悪の判断・許容度の判断,お金をめぐる友だち関係や親子関係の認識などを明らかにし,子ども達の生活世界の豊かさと貧しさという視点から考察を行うことが本研究の目的である。4か国で小学校5年生,中学校2年生,高校2年生を対象とする質問紙調査を行い,また家庭訪問による小・中・高校生にインタビュー調査も行った。分析の結果,国の一人当たりのGDPの順である日韓中越の順に子どもの消費の領域が広がっていること,友だち同士のおごり・貸し借りに関しては日本が最も否定的に捉える傾向があり,韓国やベトナムでは肯定的に捉える傾向があること,日本の子どもは自分が手にしたお小遣いは自分のお金であるという認識が強く,反対にベトナムは自分のお金も親のお金という認識が強いことが明らかになった。これらの結果の特徴をもとに,それぞれの社会における「個立型」,「共立型」という視点から生活世界の豊かさについて考察を行った。
【キーワード】金銭感覚,消費世界,お金を媒介にする人間関係,豊かさ
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◆ 上田 礼子:子どもの発達と地域環境:発達生態学的アプローチ
人間の子どもは生活能力の面で未熟な状態で産まれ,家族・地域社会のなかで育てられなければ生存することさえできない存在である。しかし,自発的学習能力は優れているので,育ててくれる人の行動を模倣し・同一視することによって家族・地域社会の一員として成長・発達する。貧困な地域環境は子どもの発達に負の影響を及ぼすことが知られている。しかし,子どもの貧困を大人と同じ次元で取り扱うことはできない。子どもは現在と未来に生きる存在であり,子ども時代の家族・地域での経験が青年期以後の生き方にも関係すること,また,子どもには発達に適合するタイミングのよい,適切な量・質の環境刺激が必要であることを重視しなければならない。たとえ幼少時に経済的に貧困であっても家族や地域社会に受け入れられ,必要な支援が得られれば強靱性を活かし逞しく発達する。つまり,経済的貧困と剥奪された物的・人的環境で孤独に生きることとは同じではない。本稿では子どもの健全な発達を目指して,@真に豊かな地域環境の構成に有用な理論,A地域環境のとらえ方,B地域に住む子どもの発達の実証的研究,C子どもの健康・行動上の問題と地域の特徴などの順に考察した。そして,結論として,地球環境すなわち地域共同体に根ざした子どもの健全な発達(略称CCD)を促す新たな環境刺激の構築を提案した。
【キーワード】Community-based Child Development(CCD),発達生態学的アプローチ,長期縦断的研究,リスク児の早期発見・支援,貧困と地域特性
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◆ 藤田 英典:現代の貧困と子どもの発達・教育
1990年代半ば以降,貧困・経済的格差が新たな社会問題として浮上し,子どもの生活・福祉・教育機会や発達にも深刻な影響を及ぼすようになった。本稿では,その現代的な貧困・格差の実態・特徴と子どもへの影響について,学力形成・教育達成と児童虐待を中心に,以下の構成で検討・考察している。@現代の貧困・格差や文化・社会のありようを踏まえ,その環境諸要因が子どもの発達の諸側面に及ぼす影響について仮説的な概念図を提示し,貧困が及ぼす影響の重大性を指摘する。A貧困・経済的格差の実態と子どもの教育達成・学力形成に及ぼす影響について種々の統計データに基づき検討し,貧困・格差の構造的複合性を指摘し,教育格差・学力格差の生成メカニズムについて経済的要因と文化的要因・社会心理的要因・学校要因が重なり合って格差が生成されていることを論じる。B児童虐待の実態とリスク要因について検討し,貧困が,単親家庭や孤立・育児疲れ等と相まって,その主要なリスク要因になっていることを確認する。C貧困・格差の再生産の傾向が強まっていることを確認し,今後の政策的・社会的課題について若干の私見を略述する。
【キーワード】貧困,構造的複合性,学力格差,児童虐待,文化的再生産
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◆ 的場 由木:成人期および老年期の貧困者支援:国内文献レビュー
本稿では成人期および老年期における貧困者支援の全体状況と課題,提言されている解決の方向性等について整理し,今後の貧困者支援にとって必要と思われる論点について検討するために文献レビューを実施した。データベースに CiNiiを用い,2002年〜2011年の10年間に発行された文献について検索し,「若年」「高齢」「障害」「就労」「自立」「支援」と「貧困」「生活保護」「低所得」「ホームレス」「野宿」「路上」「困窮」のキーワードを掛け合わせ,それぞれが重複する文献を抽出し,日本における成人期および老年期の貧困者支援に関する88編の内容を「ライフステージから見た貧困者の実態と支援」「自立支援に向けた取り組み」「社会包摂のための支援」に分類してレビューした。また,文献レビューを通じて共通の論点として見出された「支援に求められる家族的機能」「貧困者支援におけるメンタルヘルスの課題」「生涯発達における貧困の意味」の 3点について考察した。
【キーワード】貧困,支援,成人期,老年期,文献検討
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◆ 平田 修三・根ヶ山光一:制度化されたアロケアとしての児童養護施設:貧困の観点から
親以外の個体による世話行動は「アロケア」と呼ばれる。本稿では,貧困など様々な理由から生まれた家庭で育つことのできない子どもを社会が養育する仕組みである社会的養護を「制度化されたアロケア」と捉え,日本における社会的養護の主流である児童養護施設で暮らす子ども,および退所者の体験に焦点を当て,その特徴を論じた。そこから見えてきたのは,制度化されたアロケアの機能不全であった。しかし,そうした状況下にあっても,施設で暮らす子ども・退所者が当事者団体を立ち上げて互いを癒し,社会に働きかけていくケースがあることについても確認された。こうした当事者団体の活動は,機能不全状態にある社会的養護の現状および社会の認識を変えていく可能性をもっている。現代の日本社会には産むことと育てることの強力な結合の規範が存在するためその実現は容易ではないが,核家族の脆弱性が顕在化しつつあるなかで,成育家族以外にも多様な養育の形態がありうると認めることはひとつの時代的・社会的要請であると考えられた。
【キーワード】アロケア,社会的養護,児童養護施設,貧困
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